
医療機関・薬局の保険請求における「査定対象」とは、審査支払機関または保険者による審査の結果、保険診療のルールに照らして認められず、診療報酬が減額される対象となった請求項目を指します。対象は、診療行為、検査、画像診断、投薬、注射、特定保険医療材料、各種加算など、レセプトに記載された個別の請求内容です。
重要なのは、「査定対象=診療そのものが誤り」とは必ずしもいえない点です。臨床的に必要な医療であっても、保険診療としての算定要件を満たしていない、傷病名やコメントから必要性を読み取れない、回数・用量・期間が規定を超えていると判断されれば、保険給付の請求としては認められない場合があります。
厚生労働省は、レセプト審査を、診療行為が療養担当規則や診療報酬点数表などの保険診療ルールに適合しているか確認する行為と位置付けています。したがって査定対象を考える際は、「医学的に実施したか」だけではなく、「保険請求の根拠をレセプト上で説明できるか」という二層の視点が必要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000028am7-att/2r98520000028aqh.pdf
| 用語 | 意味 | 医療機関側の対応 |
|---|---|---|
| 査定 | 審査の結果、請求の一部または全部が認められず、減額して支払われること | 減点内容を確認し、必要に応じて再審査請求を検討する |
| 返戻 | 記載不備や確認事項などにより、支払決定前にレセプトが戻されること | 内容を補正し、再請求する |
| 再審査請求 | 査定に対して、根拠資料や説明を示し、判断の見直しを求める手続き | 診療録と整合する根拠を添えて提出する |
東京都医師会は、審査支払機関がレセプト項目を審査し、保険診療ルール上不適当と判断した場合に、請求を認めない、または請求項目を減点することを「査定」と説明しています。査定は返戻と違い、通常は減額後の金額で支払いが確定するため、通知を見落とさず、再審査が必要な事案を選別することが大切です。
参考)[13] レセプトの点検、審査、返戻、査定、再審査請求など
レセプトの査定、返戻、再審査請求の基本的な流れは、東京都医師会の解説が参考になります。
東京都医師会:レセプトの点検、審査、返戻、査定、再審査請求など
ただし、傷病名を増やせば査定を避けられるわけではありません。いわゆる「レセプト病名」を機械的に付与すると、診療録との不整合、傷病名の転帰未整理、長期の疑い病名放置といった別の問題を招きます。傷病名は、実際に診療上評価し、検査・治療の判断に用いた事実に基づいて整理する必要があります。
意外に見落とされやすいのは、「実施日は正しいが、医学的な時間的つながりが読めない請求」です。たとえば、初回検査の結果、治療変更、再検査という経過が必要な場面で、レセプト上の病名やコメントが乏しいと、単独では適切に見える各項目でも、全体として必要性が伝わりにくくなります。医師、薬剤師、看護師、医事課が情報を分断して扱わず、診療経過を共通理解することが査定予防につながります。
査定対象への対応では、返戻との違いを正確に理解する必要があります。返戻は、レセプトの記載漏れ、資格情報、請求内容の確認などにより、支払い決定前に修正・再提出を求められる処理です。これに対し査定は、審査側が請求内容を認めず、減額した金額で決定する処理です。
返戻は修正して再請求することが基本ですが、査定は「再請求」ではなく、必要に応じて再審査請求を行います。この区別を曖昧にすると、再提出期限の管理、根拠資料の準備、院内での責任分担に混乱が生じます。通知書の名称、減点コード、対象月、対象患者、対象となった診療行為を照合し、返戻・査定・過誤のどれに該当するかを最初に仕分ける運用が有効です。
審査支払機関は、医療機関等から提出されたレセプトを審査したうえで、保険者への請求と医療機関等への支払いを担っています。保険者が直接すべての請求を確認するのではなく、支払基金や国保連合会といった審査支払機関が間に入る仕組みであるため、査定通知には請求事務上の重要な判断情報が含まれます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000681120.pdf
ここで注意したいのは、査定理由が「臨床的に不要」と断定しているとは限らないことです。査定はあくまで保険診療上の請求可否に関する判断です。院内で共有する際に「無駄な診療だった」と短絡的に扱うのではなく、算定要件、記載、医学的妥当性のいずれに課題があったのかを分けて検討する姿勢が求められます。
査定対象を減らすには、請求後の通知確認だけでなく、請求前点検を「高リスク項目に絞って」設計することが重要です。すべての項目を同じ濃度で確認すると、作業量が増え、重要な見落としが埋もれます。院内の査定履歴を診療科、項目、理由、金額、再審査結果に分け、頻度と影響額の両方で優先順位を決めましょう。
| 確認領域 | 査定対象の例 | 請求前の確認ポイント |
|---|---|---|
| 検査 | 傷病名との関連が不明、短期間の重複、実施間隔の不整合 | 検査目的、前回実施日、結果を受けた臨床判断を確認する |
| 薬剤 | 適応外と判断される請求、過量・長期・重複投与 | 適応、用法用量、投与日数、併用意図を確認する |
| 注射・材料 | 使用根拠や数量が確認しにくい請求 | 実施記録、使用量、手技との対応を確認する |
| 加算 | 施設基準・人員配置・記録要件を満たさない請求 | 届出状況、算定日、必要な記録・説明・指導内容を確認する |
薬剤師が関与できる視点として、薬学的に妥当な処方であっても、保険請求の上では投与日数、剤形、規格、併用、適応病名の整合性が問われる点が挙げられます。特に院内採用薬の変更、後発医薬品への切り替え、プロトコール更新、電子カルテのマスタ変更後は、従来の請求ルールとのずれが生じやすいため、医事課だけに任せず、薬剤部を含む横断的な確認が必要です。
また、査定を恐れて必要な診療を控えることは本末転倒です。患者に必要な検査・治療を行ったうえで、診療録、傷病名、コメント、算定根拠を整えることが基本です。保険請求の適正化は、請求額を守るためだけではなく、診療の根拠と記録の質を可視化する業務でもあります。
検索上位の解説では、査定対象を「減点を防ぐべき請求項目」として扱う内容が中心です。しかし、査定データは医療安全や業務設計を見直す手掛かりにもなります。これは単なる請求事務の問題ではなく、診療記録、オーダー設計、チーム間連携の弱点を映す“業務の観測データ”として活用できるためです。
たとえば、同一の査定理由が特定の曜日、診療科、医師、外来枠、薬剤、検査セットに集中しているなら、個人の注意力だけの問題ではない可能性があります。テンプレートに必要項目がない、検査オーダー時に病名が連携されない、算定条件を満たさない患者にも加算候補が表示される、といったシステム・業務フロー上の要因を疑うべきです。
再審査請求の結果は、とりわけ価値の高い学習材料です。再審査で認容されたなら、当初のレセプト情報だけでは医学的必要性または請求根拠が伝わらなかった可能性があります。反対に認容されなかった場合は、診療録に根拠があっても保険算定上の条件を満たせないことがあります。結果を「勝ち負け」で終わらせず、どの情報があれば判断が変わったのかを検討することで、次回以降のレセプトの質を上げられます。
査定対象とは、請求を減額された項目という結果を示す言葉であると同時に、保険診療ルールと現場の診療記録の接点を示す言葉でもあります。個別の査定通知を丁寧に読み、返戻と区別し、傷病名・診療経過・算定要件の整合性を確認することが、適正な診療報酬請求と継続的な業務改善の基盤になります。
診療報酬審査におけるレセプトと診療内容の確認事項は、厚生労働省の審査支払機関に関する資料が参考になります。
厚生労働省:審査支払機関の現状と課題について