
プロラクチノーマは、下垂体前葉の乳汁分泌細胞であるラクトトロフに由来し、プロラクチンを過剰に分泌する下垂体腺腫です。症状は大きく、高プロラクチン血症そのものによる内分泌学的症状と、腫瘍が周辺組織を圧迫することによる局所症状に分けて評価します。
高プロラクチン血症では、視床下部におけるゴナドトロピン放出ホルモンのパルス分泌が抑制され、黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンの分泌低下を介して性腺機能低下を来します。その結果、女性では排卵障害や月経異常、男性ではテストステロン低下に伴う性機能障害が生じます。乳汁漏出症は代表的な徴候ですが、全例に認めるわけではなく、乳汁分泌の有無のみで高プロラクチン血症を否定してはいけません。
腫瘍径が小さいミクロプロラクチノーマでは、高プロラクチン血症に伴う症状が受診契機となることが多い一方、1 cm以上のマクロプロラクチノーマでは、鞍上進展による視交叉圧迫、海綿静脈洞進展に伴う脳神経症状、正常下垂体の圧迫による複数ホルモン系の機能低下を伴うことがあります。プロラクチノーマは下垂体腫瘍のうち頻度の高い機能性腺腫であり、症状と血清プロラクチン値、画像所見を統合して評価することが重要です。
参考)Prolactinoma Management - Endo…
Pituitary Society国際コンセンサス声明
症状の出現様式は、患者の性別、年齢、閉経前後、腫瘍径、プロラクチン過剰の持続期間によって異なります。閉経前女性では月経異常が比較的早期に顕在化しやすいためミクロ腺腫として発見されることがあります。一方、男性では性腺機能低下症状が非特異的で受診につながりにくく、診断時に腫瘍径の大きいマクロ腺腫である場合があります。
| 対象 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 閉経前女性 | 乏月経、無月経、月経周期延長、不妊、乳汁漏出、性欲低下、腟乾燥 | 新規の月経不順、無月経、不妊、原因不明の乳汁分泌ではPRL測定を検討する。 |
| 閉経後女性 | 乳汁漏出や月経異常が診断契機になりにくく、頭痛や視機能障害で発見されることがある | 閉経により性腺機能低下症状が目立ちにくく、腫瘍の局所症状を見逃さない。 |
| 男性 | 性欲低下、勃起障害、不妊、易疲労感、抑うつ気分、女性化乳房、まれに乳汁漏出 | テストステロン低下に伴う骨量低下も長期的に評価する。 |
| 小児・思春期 | 思春期遅発、思春期進行停止、成長障害、体重増加、女児の月経異常、乳汁漏出 | マクロ腺腫の割合が成人より高いとされ、専門チームでの評価が望ましい。 |
| マクロ腺腫共通 | 頭痛、両耳側半盲を含む視野障害、視力低下、複視、下垂体前葉機能低下 | 症状の進行性、視力への影響、急性発症の有無を速やかに確認する。 |
閉経前女性では、乏月経または無月経が約90%、乳汁分泌が約80%にみられるとの報告があります。ただし、月経異常は体重変動、ストレス、視床下部性無月経、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺疾患などでも起こり得ます。臨床症状を単独で解釈せず、妊娠の可能性、服薬、甲状腺機能、性腺系ホルモン、血清PRL値を組み合わせる必要があります。
マクロプロラクチノーマでは、腫瘍の鞍上進展によって視交叉が圧迫され、視力低下や視野障害を生じることがあります。典型的には両耳側半盲が知られていますが、患者が自覚する症状は「見えにくい」「視野の端が欠ける」「物にぶつかる」「文字が読みづらい」など非特異的なこともあります。頭痛もよくみられますが、慢性的な頭痛だけで腫瘍の大きさや進展を推定することはできません。
急激で強い頭痛、急な視力低下・視野障害、複視、眼瞼下垂、意識状態の変化、嘔吐、著明な倦怠感、低血圧、低ナトリウム血症を疑う所見がある場合は、下垂体卒中や急性下垂体機能低下症を念頭に置く必要があります。下垂体卒中では、腫瘍内出血または梗塞により急性の神経眼科症状や副腎不全を来し得るため、緊急の内分泌・脳神経外科的評価が必要です。
視野異常または視力低下を訴える患者では、対座法のみで安心せず、可能な限り正式視野検査を含む眼科的評価を急ぎます。頭部MRIでは腫瘍径、視交叉との位置関係、海綿静脈洞への進展、出血性変化を評価し、同時に副腎系、甲状腺系、性腺系、成長ホルモン系を含む下垂体前葉機能を確認します。
血清プロラクチン測定を考慮すべき状況は、閉経前女性の新規月経不順、乏月経、無月経、不妊、妊娠・授乳によらない乳汁分泌、男性の性欲低下、勃起障害、不妊、原因不明の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症などです。MRIでトルコ鞍・鞍上部病変を認めた場合にも、PRL測定は基本的な評価に含まれます。
ただし、高プロラクチン血症はプロラクチノーマと同義ではありません。妊娠、授乳、乳頭刺激、強いストレス、睡眠、腎不全、肝疾患、原発性甲状腺機能低下症、胸壁疾患、視床下部・下垂体茎病変などでPRLは上昇し得ます。さらに、ドパミン遮断作用を持つ抗精神病薬、制吐薬、消化管運動改善薬、抗うつ薬の一部、オピオイド、ベラパミルなどの薬剤も重要な二次性原因です。診察時には、処方薬だけではなく他院処方、頓用薬、注射薬、サプリメントを含めた服薬歴を確認します。
採血は静脈穿刺によるストレスの影響を受ける可能性があり、軽度上昇例では安静後の再検や複数回測定を検討します。症候が乏しいにもかかわらずPRL上昇が持続する場合や、臨床像と検査結果が合致しない場合は、マクロプロラクチンの関与も評価対象になります。反対に、大きな下垂体腫瘍があるにもかかわらずPRL上昇が不釣り合いに軽度であれば、高濃度PRLによる免疫測定のフック効果を念頭に希釈測定を依頼することが重要です。
Endotext: Prolactinoma Management
プロラクチノーマの症状は、生活の質だけでなく、生殖機能、骨代謝、精神心理面、心血管・代謝リスクに関わる性腺機能低下を介して長期的な影響を及ぼします。無月経や低エストロゲン状態が持続する患者では骨密度低下を、男性で低テストステロン状態が持続する患者では骨量減少、筋力低下、体組成変化などを評価します。乳汁分泌の有無や月経の回復だけを治療効果の指標にせず、PRL値、性腺機能、腫瘍縮小、視機能、下垂体前葉機能を総合的に追跡します。
治療の中心はドパミン作動薬であり、症候性のミクロプロラクチノーマおよびマクロプロラクチノーマでは、PRL低下、性腺機能の回復、乳汁分泌の改善、腫瘍縮小を目的に用いられます。カベルゴリンは多くの症例で有効性と忍容性の面から第一選択として位置付けられますが、視力が急速に悪化している場合、腫瘍出血が疑われる場合、薬剤抵抗性・不耐容の場合には、脳神経外科との連携を早期に行います。
診療現場では、「月経が乱れている」「乳汁が出る」「性欲が落ちた」といった一見よくある訴えの背景に、高プロラクチン血症と下垂体病変が隠れていないかを考えることが出発点になります。特に、性腺機能低下症状に頭痛、視機能異常、複数の下垂体ホルモン低下を疑う所見が加わる場合は、マクロプロラクチノーマを含む鞍部病変として優先度を上げ、内分泌学的検査とMRI評価につなげることが重要です。