
プレスリリースは、商品やサービスの宣伝文ではなく、報道機関が記事化を検討するための公式情報です。医療機関、薬局、製薬企業、医療機器企業、研究機関が発信する場合は、とりわけ「新しい」「社会的意義がある」「裏付けを確認できる」という3点が問われます。
書き方に迷った場合は、重要情報を上から順に置く逆三角形の構成を使います。記者は短時間で多数の情報を確認するため、本文の後半まで読まなければ結論が分からない文章は不利です。タイトル、リード文、本文、補足情報、組織概要、問い合わせ先という順序を基本形にすると、必要事項の漏れを減らせます。
参考)PR TIMES MAGAZINE|広報PRのナレッジを発信…
| 構成要素 | 記載する内容 | 医療分野での注意点 |
|---|---|---|
| 発信日・発信者 | 公開日、法人・施設の正式名称 | 情報解禁日時が別にある場合は、発信日と明確に分ける |
| タイトル | 最も重要な事実、新規性、対象 | 「世界初」「必ず改善」など根拠不十分な断定を避ける |
| リード文 | 5W1H、結論、ニュースの要点 | 患者・利用者にとって何が変わるかを具体化する |
| 本文 | 背景、詳細、根拠、今後の予定 | 研究デザイン、対象者数、承認状況を必要に応じて示す |
| 補足資料 | 図表、写真、用語解説、URL | 患者画像・症例情報は同意と匿名化を再確認する |
| 問い合わせ先 | 部署、担当者、電話、メール | 取材対応可能な担当者と時間帯を社内で共有する |
以下は、診療所が新しい慢性疾患支援プログラムを開始する場合のテンプレートです。角括弧内を事実確認済みの情報に置き換えて使います。
【報道関係者各位】
発信日
医療機関・法人の正式名称
対象疾患・対象者向けに新サービス名を開始
— 開始日から地域・方法で継続支援を提供 —
医療機関名は、開始日より対象者を対象に、
サービス名の提供を開始します。背景となる地域課題・患者課題を受け、
サービスの内容により期待される変化を目指します。
■開始の背景
公的統計、地域課題、臨床現場で把握した課題
■サービスの内容
・対象:対象疾患、年齢、利用条件
・実施:頻度、場所、オンライン・対面の別
・内容:支援内容、連携職種、予約方法
・開始日:年月日
■利用上の留意点
本サービスは保険診療・自費・対象外となる条件です。
治療内容は個別の診察・評価に基づき決定します。
【取材・お問い合わせ先】
部署名/担当者名/電話番号/メールアドレス
タイトルは、抽象語ではなく「誰に何が起きるか」を示します。「地域医療に貢献する新たな取組」では内容が分かりません。一方で、「名古屋市の糖尿病患者向け、薬剤師による服薬継続支援を9月開始」のように、対象、内容、地域または時期を入れると、記事の切り口を判断しやすくなります。
一般的にはタイトルを30文字前後にまとめ、最も伝えたい内容を一つに絞る考え方が推奨されています。情報を詰め込みすぎるよりも、サブタイトルで開始日、対象、連携先などを補足する方が読みやすくなります。
参考)プレスリリースの書き方11のポイント!基本構成と記者に取り上…
リード文は、タイトルを言い換える場所ではありません。本文を読まなくても概要を把握できるよう、発信者、開始・公表日、対象、取り組みの内容、背景、利用方法または研究結果を2〜3文に圧縮します。医療領域では「何をするか」だけでなく、「誰に適用できるのか」「現時点で分かっている範囲はどこまでか」を先に書くと、誤解の拡散を抑えやすくなります。
たとえば研究成果なら、「○○大学は、△△患者□□人を対象とした前向き観察研究において、AとBの関連を確認した。本結果は関連を示すものであり、因果関係や治療効果を直接示すものではない」と書きます。限界を冒頭に添えると弱く見えると考えがちですが、研究の射程を正確に伝えることは、専門記者からの信頼につながります。
本文では、「なぜ今この情報を出すのか」という背景から書き始めます。続いて、サービス・製品・研究の具体的内容、利用者や社会にとっての意義、客観的根拠、今後の予定を示します。1段落に複数の論点を詰め込まず、見出しごとに一つの問いに答える構成にすると、転載・引用する側の負担を減らせます。
医療者向けの発信では、数値を魅力づけの道具として切り取らないことが重要です。たとえば「改善率80%」だけでは、分母、評価指標、観察期間、比較対照、脱落例が不明です。少なくとも、対象数、評価時点、指標、研究デザイン、統計的な扱いを本文または資料に明記します。
例文:本取り組みでは、2026年4月から6月までに登録した65歳以上の患者48人を対象に、退院後30日以内の服薬確認を実施した。服薬状況の改善は自己申告と持参薬確認により評価しており、無作為化比較試験による有効性の検証ではない。今後は対象数を拡大し、再入院率および患者報告アウトカムを含めて評価する予定である。
このように「得られた結果」と「まだ結論できないこと」を隣接させると、過大解釈を防げます。医療用医薬品に関する情報提供では、承認範囲内の情報であること、有効性だけでなく副作用を含む安全性情報も偏りなく扱うこと、科学的・客観的根拠に基づくことが求められます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/000359881.pdf
研究成果を伝える場合は、査読論文のDOI、公的研究費の課題番号、臨床試験登録番号、学会発表の名称などを示すと、検証可能性が上がります。論文が未査読なら、その事実を隠さず「学会発表予定」「プレプリント公開」と明記します。研究成果のプレスリリースは、分野外の人に新規性と意義を伝える科学コミュニケーションの手段である一方、専門用語の省略によって結論を強めすぎない配慮が必要です。
参考)https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/SC_guideline.pdf
研究成果の表現と限界の伝え方は、日本心理学会の科学コミュニケーション指針が参考になります。
日本心理学会「研究成果のプレスリリース」
医療領域では、プレスリリースという名称だけで広告規制の対象外になるわけではありません。発信先、内容、表示方法、誘引性などによっては、医療広告、医薬品・医療機器に関する広告、販売情報提供活動としての確認が必要です。特に自社サイト、SNS、予約ページ、ニュースリリースの転載先まで含めて、患者・生活者がどの表現に接触するかを確認します。
厚生労働省の医療広告ガイドラインは、病院・診療所などの広告で問題となりやすい表示の考え方やQ&Aを公開しています。医療機関の新規診療、自由診療、再生医療、美容医療などを扱う記事は、広報公開前に必ず最新版を確認してください。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000206553_00012.html
医療広告規制の対象範囲と考え方を確認する際に役立つ公的資料です。
厚生労働省「医療広告ガイドライン」
医療用医薬品の販売情報提供活動では、承認範囲内の情報であることに加え、有効性と安全性を恣意的に選ばず提供することが求められます。プレスリリースの段階で薬事、メディカル、PV、法務、広報の確認者と確認日を記録しておくと、後日の差し替えや問い合わせ対応も円滑です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001212993.pdf
見落とされがちですが、プレスリリースは公開時点で完成するものではありません。医療分野では、記者から「対象患者は誰か」「安全性はどう確認したか」「保険診療か」「研究の限界は何か」といった質問が届くことがあります。問い合わせ先が代表番号だけの場合、折り返しに時間がかかり、報道機会を逃すことがあります。
問い合わせ欄には、組織名、部署名、担当者名、電話番号、メールアドレスを記載します。可能であれば広報担当と内容責任者を分け、急な問い合わせにも対応できるよう複数人で共有します。報道関係者向けの連絡先と、患者・利用者向けの予約窓口は混在させない方が安全です。
【取材対応メモ】
・本件の報道解禁日時:年月日・時刻・タイムゾーン
・一次対応者:氏名/部署/連絡先
・医学的内容の確認者:医師・薬剤師・研究責任者
・薬事・広告表現の確認者:氏名/部署
・回答可能な事項:開始日、対象、費用、実施場所
・回答前に確認する事項:個別症例、未公表データ、有害事象、提携条件
・提供可能な素材:ロゴ、施設写真、図表、専門家コメント
この事前問答は、炎上対策というより、医療情報の精度管理です。発信後に説明を追加するのではなく、読者が誤って受け取りそうな箇所を公開前に修正できます。正確な情報、検証できる根拠、迅速な取材対応をそろえることが、医療従事者のプレスリリースを単なる告知ではなく、信頼される社会的情報に変えます。