
偽性アルドステロン症は、血中アルドステロン濃度が上昇していないにもかかわらず、原発性アルドステロン症に類似した高血圧、浮腫、低カリウム血症、代謝性アルカローシスなどを呈する病態です。「偽アルドステロン症」と表記されることもあり、医療現場では薬剤性の病態として遭遇する機会があります。とくに甘草またはグリチルリチンを含有する医薬品・漢方製剤の使用歴は、重要な手掛かりになります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
通常、腎集合管ではアルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に作用し、ナトリウム再吸収とカリウム排泄を促進します。一方、腎では11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11β-HSD2)がコルチゾールをコルチゾンへ不活化し、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を過剰に刺激しないように保護しています。甘草由来成分であるグリチルリチン酸関連物質は、この酵素活性を阻害し、腎局所でコルチゾールによるミネラルコルチコイド様作用を増強します。その結果、体内のナトリウム・水分貯留と腎性カリウム喪失が生じます。
参考)偽アルドステロン症|一般の皆様へ|日本内分泌学会
この病態では、循環血液量の増加を介してレニン分泌およびアルドステロン分泌が抑制されるため、一般にレニン低値、アルドステロン低値または不適切に低い値が示唆されます。したがって、低カリウム血症と高血圧を認めた場合は、原発性アルドステロン症だけでなく、服薬歴・サプリメント・市販薬を含めた曝露歴を確認し、偽性アルドステロン症を鑑別に入れる必要があります。
偽性アルドステロン症における低カリウム血症は、主として腎からのカリウム排泄増加によって生じます。ミネラルコルチコイド受容体が過剰に刺激されると、遠位尿細管から集合管でのナトリウム再吸収が亢進します。その際に管腔内電位の変化などを介し、カリウム分泌が促進されます。水素イオン排泄も増えやすく、低カリウム血症と代謝性アルカローシスが並行してみられることがあります。
カリウム低下の程度は軽微なものから、歩行困難、著明な筋力低下、横紋筋融解症、不整脈リスクを伴う重症例まで幅があります。自覚症状としては、全身倦怠感、四肢脱力、筋肉痛、こむら返り、しびれ、動悸などが重要です。高齢者や腎機能低下例、多剤併用例では、非特異的な「元気がない」「歩けなくなった」「食欲が落ちた」といった訴えが初発となる可能性もあるため、電解質検査を含めた評価が必要です。厚生労働省およびPMDAは、手足の力が抜ける、筋肉痛、こむら返り、血圧上昇、浮腫などに注意し、症状があれば医師・薬剤師へ相談するよう注意喚起しています。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 血清カリウム | 低値を認める。重症化すると著明な低下を来すことがある | 単回値だけでなく、過去値との比較と低下速度を確認する |
| 血圧 | 上昇しやすい | 既存高血圧の増悪として見つかる場合もある |
| 浮腫・体液量 | ナトリウム・水分貯留により浮腫や体重増加を伴いうる | 心不全、腎疾患、肝疾患との鑑別も必要となる |
| 酸塩基平衡 | 代謝性アルカローシスを呈しうる | 嘔吐、利尿薬使用、低マグネシウム血症なども併せて評価する |
| レニン・アルドステロン | レニン低値、アルドステロン低値または抑制が示唆される | 採血条件、併用薬、体液量による影響を考慮して解釈する |
| 尿中カリウム | 低カリウム血症にもかかわらず腎性喪失が示唆されることがある | 腎外喪失との鑑別では尿所見を臨床状況と併せて判断する |
原因としてまず確認したいのは、甘草またはグリチルリチンを含む処方薬、漢方製剤、市販薬です。甘草は多くの漢方処方に配合されており、処方名のみから含有の有無を正確に判断しにくい場合があります。また、グリチルリチン製剤は肝疾患領域などで用いられることがあり、服用期間や用量、他の甘草含有製剤との併用がリスク評価に直結します。市販のかぜ薬、胃腸薬なども問診対象に含める必要があります。
問診では「漢方を飲んでいますか」だけでは不十分です。処方薬、お薬手帳に記載されない一般用医薬品、ドラッグストアや通信販売で購入した製品、健康食品、他院・他科処方、家族から譲り受けた薬まで、実物または商品名を確認する姿勢が重要です。複数の診療科や薬局を利用している患者では、甘草含有製剤の重複投与が把握されにくく、累積曝露が増える可能性があります。
偽性アルドステロン症は、用量依存的に起こりやすい一方で、少量または短期間の使用でも発現を完全には否定できません。製剤ごとのグリチルリチン含量、個体差、併用薬、基礎疾患によってリスクは変わります。低カリウム血症の発見時には、単に「カリウムが低い」と扱うのではなく、薬剤性の腎性カリウム喪失として説明可能かを検討します。
PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症」
低カリウム血症を確認した際は、まず緊急性を評価します。著明な筋力低下、呼吸筋症状、失神、胸部症状、動悸、意識障害、心電図異常があれば、迅速なモニタリングと補正を要します。心電図ではT波平低化、ST低下、U波、QT延長様の所見などが問題となりえますが、血清カリウム値だけで重症度を断定せず、症状、速度、併存疾患、マグネシウム値、薬剤、心電図を統合して評価します。
次に、カリウム低下が腎性喪失か腎外喪失かを考えます。低カリウム血症にもかかわらず尿中カリウム排泄が不適切に多い場合、腎性カリウム喪失が疑われます。血圧、酸塩基平衡、尿所見、腎機能、服薬歴を組み合わせることで、利尿薬、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、Liddle症候群、遺伝性あるいは後天性の11β-HSD2異常、尿細管障害などとの鑑別を進めます。
原発性アルドステロン症との違いは重要です。両者とも高血圧と低カリウム血症を呈しえますが、偽性アルドステロン症ではアルドステロンが上昇しない点が基本的な相違点です。ただし、レニン・アルドステロンの評価は採血時の姿勢、時間帯、食塩摂取、降圧薬、利尿薬、腎機能、カリウム値に影響されます。低カリウム血症そのものがアルドステロン分泌に影響する可能性もあるため、検査値は前処置や臨床経過を踏まえて慎重に解釈します。
なお、「偽性アルドステロン症」と「偽性低アルドステロン症」は名称が似ていますが、病態は異なります。偽性低アルドステロン症I型では、一般に高カリウム血症、低ナトリウム血症、レニン・アルドステロン高値などが問題となり、甘草関連の偽性アルドステロン症による低カリウム血症とは対照的です。用語の取り違えを避けることが、検査解釈と診療方針の出発点になります。
参考)偽性低アルドステロン症I型 - 03. 泌尿器疾患 - MS…
薬剤性偽性アルドステロン症が疑われる場合、基本となる対応は原因と考えられる甘草・グリチルリチン含有製剤の中止、または代替治療への変更です。原因薬を継続したままカリウム製剤のみで対応すると、腎からのカリウム排泄亢進が持続し、補正が不十分になったり再低下したりするおそれがあります。厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでも、推定原因医薬品の中止を第一とし、カリウム製剤のみでは尿中カリウム排泄を増やして効果が乏しい場合があること、スピロノラクトンが有効とされることが示されています。
ただし、具体的な補正経路、カリウム投与量、投与速度、入院適応、カリウム保持性利尿薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の選択は、血清カリウム値、症状、心電図、腎機能、体液量、併用薬により異なります。とくに腎機能低下例、ACE阻害薬・ARB・NSAIDsなどの併用例、治療後に原因薬が中止された例では、高カリウム血症への反転にも注意が必要です。カリウム補充は「低値を一度正常化する」だけでなく、原因除去後の再評価を含めた継続的な管理として行います。
再発予防では、処方時・調剤時・服薬指導時の情報連携が重要です。甘草含有漢方薬を新規に開始する場合、あるいは複数製剤を併用する場合は、血圧、浮腫、体重変化、筋症状、血清カリウムを確認する計画をあらかじめ共有します。患者には、漢方薬や市販薬も含めて「複数の製品に同じ成分が含まれる可能性がある」ことを説明し、自己判断で追加購入しないこと、脱力・こむら返り・動悸・むくみ・血圧上昇があれば早めに相談することを伝えます。偽性アルドステロン症は原因を見つけて適切に対応できれば予後は良好とされるため、カリウム異常を薬剤安全性情報へ結び付ける視点が重要です。