
おむつ交換や新生児診察で見つかる「おしりのくぼみ」は、医学的には仙尾部皮膚陥凹、仙尾部dimple、sacral dimpleなどと呼ばれる。画像だけを見て二分脊椎の有無を決めることはできないが、診察時の視点を共有する材料としては有用である。最初に確認すべきなのは、くぼみが臀裂の中にあるのか、臀裂より頭側の腰仙部にあるのかである。
潜在性二分脊椎に関連する皮膚所見は、腰背部正中、特に臀裂より高い位置にみられることが多い。一方、臀裂内で尾骨近傍にあり、単発で小さく、底が確認できる仙尾部皮膚陥凹は、日常診療で比較的よく遭遇する。皮膚異常を主訴として紹介される児のすべてが二分脊椎というわけではなく、位置・形態・付随所見を組み合わせて層別化することが、過剰な不安と見逃しの両方を減らす。
おしりのくぼみ画像を記録する場合は、個人情報保護と施設規定を前提に、肛門・臀裂・くぼみの位置関係がわかるように撮影する。単なる拡大像では「どこにあるくぼみか」が失われやすい。全体像、近接像、スケールを置いた画像を分け、診療録には肛門からの距離、直径、底の視認性、分泌物の有無を文章でも残すことが重要である。
小児脳神経外科の解説では、腰背部皮膚異常を主訴とする紹介例の多くは仙尾部dimpleであり、そのすべてが脊髄病変ではないこと、ただし臀裂より頭側の皮膚異常や複合皮膚所見は重要であることが示されている。
参考)https://www.radionikkei.jp/uptodate/uptodate_pdf/uptodate-211012.pdf
腰背部皮膚異常と潜在性二分脊椎の位置関係を詳しく確認できる資料です。
小児科医に知ってほしい先天性皮膚洞・二分脊椎症の診療
おしりのくぼみに対しては、「小さなえくぼだから大丈夫」「二分脊椎かもしれないから全例MRI」といった二択ではなく、赤旗所見を整理する。特に、くぼみの底が見えない、液体・膿・血性分泌が出る場合は、先天性皮膚洞が脊柱管方向へ連続している可能性を考える。皮膚側の細菌が深部に到達すれば髄膜炎や膿瘍につながり得るため、経過観察のみで済ませない。
| 画像・診察での所見 | 考え方 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 臀裂内、尾骨近傍、単発、小さく底が見える | 単純仙尾部皮膚陥凹を考える | 全身・神経所見を確認し、小児科で判断 |
| 肛門から頭側へ離れたくぼみ | 潜在性二分脊椎の関連所見を考える | 小児科から専門診療科への相談を検討 |
| 直径5mm以上、深い、多発 | 非典型的dimpleの可能性 | 皮膚所見と神経所見を再評価 |
| 毛束、血管腫、母斑、皮下腫瘤、皮膚突起 | 複合皮膚マーカー | 画像検査・専門紹介を検討 |
| 分泌物、膿、発赤、発熱 | 皮膚洞と感染の可能性 | 速やかな医療評価が必要 |
よく用いられる目安には、直径5mm以上、肛門から頭側に2.5cm以上離れていること、複数のくぼみ、臀裂の変形、局所の毛や隆起があることが含まれる。ただし、これらは診断を確定する数値ではなく、画像検査や専門科紹介を考えるための臨床的なスクリーニング所見である。月齢、皮下脂肪、臀部の形態によっても見え方が変わるため、数値だけで機械的に判断しない。
乳児のくぼみに関する解説では、底が確認できない場合や分泌物がある場合の早期受診、ならびに大きさ・高位・毛・臀裂変形などの併存所見の確認が勧められている。
参考)おしりの近くのくぼみに注意しましょう – 小児科…
二分脊椎は、神経管の発生障害に由来する脊髄・脊椎の先天異常であり、開放性と潜在性に大別される。開放性二分脊椎には脊髄髄膜瘤などが含まれ、生下時から病変が明らかなことが多い。これに対して潜在性二分脊椎では、病変は皮膚に覆われ、出生直後には下肢運動や排泄の異常が明瞭でないこともある。そのため、腰仙部の皮膚陥凹、血管腫、母斑、皮下脂肪腫などが、診断への入口になる。
潜在性二分脊椎で問題となる病態の一つが脊髄係留症候群である。脊髄が脂肪組織や線維性組織などに固定され、成長に伴う牽引で神経障害を生じる。経過中に、歩行の変化、下肢の筋力低下・感覚異常、足部変形、疼痛、頻尿、尿失禁、尿路感染の反復、便秘や便失禁が手掛かりになることがある。
ここで注意したいのは、「おしりのくぼみ」と「将来の神経障害」を短絡的に結びつけないことである。仙尾部dimpleの画像検査で脊髄終糸脂肪腫や小さな嚢胞が見つかる場合があっても、病変の種類、脊髄円錐の位置、係留所見、症状の有無によって臨床的な意味は異なる。画像所見の名称だけで手術適応を語らず、小児脳神経外科、泌尿器科、整形外科を含めた継続評価につなげる。
日本小児科学会の移行期医療資料でも、潜在性二分脊椎では皮膚陥凹・母斑・皮下脂肪腫などの皮膚徴候を伴うことが多く、成長後に脊髄係留症候群として神経障害が出現し得ると整理されている。
参考)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240130_GL019.pdf
潜在性二分脊椎の病態、検査、成人期まで見据えた多職種管理を確認できる日本小児科学会の資料です。
脊髄髄膜瘤・髄膜瘤・潜在性二分脊椎
検査は、皮膚所見、神経学的診察、月齢、施設の体制を踏まえて選択する。乳児期早期では脊椎後方の骨化が進んでいないため、脊髄超音波検査で脊髄円錐の位置、終糸の太さ、脂肪性病変、脊柱管内の嚢胞などを評価できる。鎮静を避けやすく、まず行いやすい検査である一方、成長とともに音響窓が制限される。
MRIは脊髄、終糸、脂肪腫、皮膚洞、係留の評価に優れる。乳児では体動対策や鎮静・麻酔の要否を検討する場面もあるため、「画像を一度撮れば安心」とは限らない。検査適応は、非典型的dimple、複合皮膚所見、神経学的異常、泌尿器症状、超音波での疑わしい所見などを総合して決める。
単純X線は椎弓の骨性異常を捉えることがあるが、脊髄・終糸・皮膚洞の交通を評価する検査ではない。画像検査の目的を「二分脊椎という名称を付けること」ではなく、「神経障害や感染につながる構造異常を見落とさないこと」と共有すると、保護者説明もぶれにくい。
乳児の超音波検査は月齢が進むと行いにくくなり、必要時には腰椎MRIへ進むことがある。紹介前に、くぼみの位置・サイズ・併存皮膚所見・排尿排便状況を整理しておくと、検査の優先度を判断しやすい。
見逃し予防で意外に重要なのは、画像そのものより「位置を再現できる診療録」である。紹介状に「仙骨部にdimpleあり」とだけ記載されていると、受診時に体格や皮膚のしわが変化しており、紹介元で見えていた所見を正確に追えないことがある。おしりのくぼみは小さく、家族の説明だけでは位置が曖昧になりやすい。
実務上は、次のような記録が有効である。例えば「肛門縁から頭側12mm、正中、臀裂内、直径2mm、単発、底部視認可、分泌物なし、毛束・血管腫・皮下腫瘤なし、下肢運動左右差なし、排尿排便に明らかな異常なし」と書けば、次回診察や専門科紹介でも所見を比較できる。逆に「くぼみあり」だけでは、二分脊椎を疑った根拠も、経過観察を選んだ根拠も伝わりにくい。
画像を保存する場合は、同意取得、院内の撮影・保管規程、アクセス権限を必ず確認する。臀部の画像はプライバシー性が高く、私用端末や個人SNS、非承認のメッセージアプリで取り扱わない。教育目的で提示する際も、顔や識別情報を含めず、必要最小限の範囲にトリミングする。
また、保護者への説明では「くぼみがあること」と「二分脊椎と診断されたこと」は別であると明確にする。現時点で問題が小さい所見でも、分泌物、発赤、発熱、足の動きの左右差、排尿・排便の変化があれば再受診するよう伝える。画像を撮って終わりではなく、観察すべき変化を具体化することが、安心と安全の両方につながる。