
おしりの割れ目付近にある「くぼみ」(仙骨部皮膚陥凹、sacral dimple)は、新生児の約2〜4%にみられる比較的頻度の高い所見です 。しかし、そのほとんどは単なる正常変異であり、医学的には「simple dimple(単純性陥凹)」と呼ばれ、画像検査も不要とされています 。
では、どのようにして「大丈夫なくぼみ」と「精査が必要なくぼみ」を見分けるのでしょうか。国際的なガイドラインおよび日本の小児神経学会の報告に基づき、以下の3つの基準が確立されています :
これら3つの条件をすべて満たす場合、そのくぼみは「simple dimple」と定義され、二分脊椎のリスクは限りなくゼロに近いとされています 。逆に、これらの条件のいずれか一つでも外れる場合(例:肛門から2.5cmより上にある、直径5mmより大きい、正中からずれている)、あるいは他の皮膚所見(血管腫、多毛、皮下腫瘤など)を合併する場合は「atypical dimple(非典型性陥凹)」とみなされ、画像検査による精査が強く推奨されます 。
意外な事実として、おしりの割れ目(臀裂)の最も深い部分、つまり尾骨の先端付近にあるくぼみは「coccygeal pit(尾骨陥凹)」と呼ばれ、これも良性所見とされています 。しかし、臀裂より高い位置、つまり腰仙部(腰椎〜仙骨上部)に位置するくぼみは、潜在性二分脊椎との関連が強く疑われるため注意が必要です 。
おしりのくぼみが「atypical dimple」に該当する場合、次のステップは画像診断です。しかし、すべての年齢で同じ検査が推奨されるわけではありません。年齢に応じた適切な画像診断モダリティの選択が、正確な診断と不要な侵襲を避けるために重要です 。
参考)【小児科blog:神経, 新生児】神経管閉鎖不全(二分脊椎,…
生後3ヶ月未満:超音波検査が第一選択
生後4ヶ月以降:MRIがゴールドスタンダード
生後4ヶ月を過ぎると、椎弓の骨化が進行し、超音波では脊椎管内の構造が評価しにくくなります。この時期以降では、MRI(磁気共鳴画像)が診断のゴールドスタンダードとなります 。MRIは、脊髄円錐の位置(通常はL1〜L2レベル)、終糸の肥厚、脂肪腫、皮膚洞、脊髄係留の有無などを詳細に評価できます 。
ただし、MRIは鎮静が必要であり、検査時間も長いため、乳幼児では負担が大きいというデメリットがあります。そのため、超音波で明らかな異常が認められた場合や、神経症状(膀胱直腸障害、下肢の筋力低下など)を伴う場合に優先的に施行されます 。
おしりのくぼみ単独でも注意が必要ですが、さらにリスクが高まるのが「複数の皮膚所見の合併」です。潜在性二分脊椎の「告げ口サイン」として知られる皮膚所見は、くぼみ以外にも多岐にわたります 。
参考)http://www.med.akita-u.ac.jp/~seiri1/Japanese/okamoto/med/Neuro_SpinaBifida.htm
以下の皮膚所見がおしりのくぼみと合併している場合、二分脊椎のリスクは著しく高まります。
参考)二分脊椎 - 19. 小児科 - MSDマニュアル プロフェ…
特に注目すべきは、これらの所見が「2つ以上」合併している場合です。複数の皮膚所見を有する児では、単独の場合に比べて脊髄奇形が6倍も高頻度で検出されるという報告があります 。また、血管腫を合併するくぼみは、皮膚洞(dermal sinus tract)や脂肪髄膜瘤(lipomyelomeningocele)との関連が強く、早期のMRI検査が不可欠です 。
意外な盲点として、「おしりの割れ目の中にあるくぼみ」でも、底が見えないほど深いものや、分泌物(膿や髄液)を認める場合は、感染性皮膚洞の可能性があり、これもMRIによる精査が必要です 。
ここまではガイドラインに基づく標準的な診断フローを解説しましたが、実際の臨床現場では、より微妙な所見を見逃さないことが重要です。特に超音波検査においては、以下の「見落としやすい所見」に注意が必要です。
低位脊髄円錐(low-lying conus medullaris)
終糸肥厚(thickened filum terminale)
終糸は脊髄円錐から尾骨にかけて伸びる細い線維性の構造ですが、その直径が2mmを超える場合、「終糸肥厚」とされ、これも係留脊髄の所見となります 。終糸内に脂肪成分(高エコー)を認める場合は「脂肪性終糸(fatty filum)」と呼ばれ、より強い係留のリスク因子です。
参考)脊髄・脊椎−先天奇形との鑑別を中心に− (画像診断 39巻1…
V字型の脊椎先端
診断の落とし穴として、「おしりのくぼみ=必ず画像検査」という安易な判断は避けるべきです。simple dimpleの基準を満たす場合、画像検査を施行しても異常が検出される確率は0.1%未満であり、医療資源の浪費と、不要な鎮静によるリスクを生むだけです 。逆に、「たまたまおしりの割れ目にあるから大丈夫」と自己判断し、atypical dimpleの基準(肛門から2.5cm以上、直径5mm以上、正中から外れている)を満たすくぼみを見逃すことも危険です。
係留脊髄症候群では、仙髄〜腰髄の神経が障害され、以下のような排尿・排便機能の異常がみられます :
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000157223.docx
これらの症状は、小児では「おむつがなかなか外れない」「夜尿症が治らない」「便秘がひどい」といった形で現れることが多く、単なる「おむつトレーニングの遅れ」と誤解されやすいのが実情です 。
画像診断において、膀胱直腸障害を伴う症例では、腎・尿路系の超音波検査や膀胱造影、膀胱機能検査(尿流量測定、膀胱内圧測定など)を併せて施行することが推奨されます 。MRIでは、脊髄の係留だけでなく、水頭症やキアリ奇形II型(小脳や延髄が大後頭孔から脊柱管内に陥入する奇形)を合併していることもあり、頭部から仙骨部までの広範囲な評価が必要です 。
意外な事実として、潜在性二分脊椎の患者の約20〜30%は、出生時には皮膚所見も神経症状もみられず、学童期以降に「歩行異常」「足の痛み」「脊柱側弯症」を主訴に受診し、初めて診断されるケースがあります 。そのため、おしりのくぼみを指摘された児は、単に画像検査で「異常なし」とされるだけでなく、成長に伴う定期的な神経学的フォローアップ(排尿状態、歩行、下肢の筋力・反射など)が不可欠です 。
日本小児科学会ガイドライン:脊髄髄膜瘤・髄膜瘤・潜在性二分脊椎
MSDマニュアル プロフェッショナル版:二分脊椎
慶應義塾大学病院 脳神経外科:二分脊椎(脊髄脂肪腫、脊髄髄膜瘤)

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