内臓真菌症は、真菌が血流、肺、腹腔内、肝脾、腎、心臓、中枢神経、眼などの深部臓器へ侵入し、組織障害を来す感染症群です。臨床では「深在性真菌症」や「侵襲性真菌感染症」と重なる概念として扱われます。口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症、腟カンジダ症などの表在性・粘膜感染症とは異なり、内臓真菌症では全身状態の悪化や臓器障害を伴いうるため、早期認識が重要です。
代表的な病原体には、カンジダ属による侵襲性カンジダ症・カンジダ血症、アスペルギルス属による侵襲性肺アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムーコル症、ニューモシスチス肺炎などがあります。ただし、病原体ごとに好発臓器、進行速度、画像所見、検査法、治療選択は異なります。したがって「発熱があるから真菌症」「β-D-グルカン陽性だから内臓真菌症」と単独所見で診断するのではなく、宿主因子、症状、画像、生体試料の培養、病理、抗原・核酸検査を統合する姿勢が必要です。
侵襲性カンジダ症では、発熱や悪寒が抗菌薬投与後も改善しないことがありますが、症状自体は非特異的です。カンジダ血症に加え、心内膜炎、腹膜炎、髄膜炎、骨髄炎、関節炎、眼内炎などの病型が生じうるため、血流感染を確認した際には播種病変を意識した臓器評価が求められます。
参考)Clinical Overview of Invasive …
CDC:Clinical Overview of Invasive Candidiasis
内臓真菌症の初期症状には、発熱、悪寒、倦怠感、食欲低下、頻脈、低血圧、意識状態の変化などがあります。しかし、これらは細菌感染症、ウイルス感染症、薬剤熱、腫瘍熱、自己免疫性疾患、血栓症などでも見られます。そのため、症状の有無だけでなく、「広域抗菌薬に反応しない」「感染巣が明確でない」「免疫抑制状態にある」「血管内カテーテルや腹部手術の既往がある」といった背景を併せて評価します。
侵襲性肺アスペルギルス症では、発熱、咳嗽、喀痰、胸痛、呼吸困難、低酸素血症、時に喀血を認めます。ただし、好中球減少例や高度免疫抑制例では、症状や身体所見が乏しいまま進行することがあります。胸部CTでは結節影、浸潤影、楔状病変が典型的所見の一部であり、好中球減少患者では結節周囲のすりガラス影としてみられるhalo signが観察されることがあります。
参考)IDSA 2016 Clinical Practice Gu…
| 病変部位・病型 | 主な症状・徴候 | 評価時の注意点 |
|---|---|---|
| 血流感染・播種性カンジダ症 | 持続発熱、悪寒、敗血症像、循環不全 | 症状は非特異的であり、血液培養、血管内デバイス、臓器播種を評価する |
| 肺アスペルギルス症 | 発熱、咳嗽、胸痛、呼吸困難、低酸素血症、喀血 | 胸部CTと気道検体、抗原・培養・必要時病理を組み合わせる |
| 中枢神経病変 | 頭痛、発熱、意識障害、けいれん、局所神経脱落症状 | 髄液所見が非典型的なこともあり、神経画像と病原体別検査を検討する |
| 腹腔内病変 | 腹痛、腹部膨満、圧痛、発熱、イレウス様症状 | 消化管穿孔、腹部手術、膵炎、腹腔内ドレーン留置の背景を確認する |
| 眼病変 | 霧視、飛蚊症、眼痛、視力低下 | カンジダ血症などでは眼症状を聴取し、必要時に眼科評価を行う |
なお、呼吸器検体からのカンジダ検出は、特に人工呼吸管理中などでは定着を反映することが多く、原則として呼吸器分泌物の培養陽性だけで肺カンジダ症と判断しません。抗真菌薬投与の適否は、臨床像、画像、血液培養、組織侵襲を示す病理所見などを踏まえて決定します。
参考)IDSA 2016 Clinical Practice Gu…
内臓真菌症を見逃さないためには、症状と同等か、それ以上に宿主因子の把握が重要です。好中球減少、急性白血病などの血液悪性腫瘍、造血幹細胞移植、固形臓器移植、長期または高用量の副腎皮質ステロイド投与、T細胞機能低下を来す免疫抑制療法、進行した免疫不全、集中治療室への長期入室は、侵襲性真菌感染症の重要な背景となります。アスペルギルス症では、遷延する好中球減少、同種造血幹細胞移植、固形臓器移植、コルチコステロイド使用などが特に問題となります。
侵襲性カンジダ症を考える場面では、中心静脈カテーテル、完全静脈栄養、広域抗菌薬の長期使用、腹部大手術、消化管穿孔・縫合不全、重症急性膵炎、腎代替療法、重症敗血症、長期ICU管理などを確認します。これらの因子がある患者で、原因が確定しない発熱やショック、抗菌薬不応性の炎症反応を認めた場合は、侵襲性カンジダ症を鑑別に挙げます。IDSAは、リスク因子を有し、ほかに発熱の原因が明らかでない重症患者では経験的抗真菌治療を考慮し、敗血症性ショックの臨床徴候がある場合は速やかな開始を推奨しています。
一方で、リスク因子があることは診断確定を意味しません。真菌の定着、細菌感染との混合感染、ウイルス再活性化、薬剤性肺障害、原疾患の進行なども並行して検討し、経験的治療の適応は患者の重症度と検査可能性を含めて個別に判断します。
内臓真菌症が疑われる場合、検体採取と画像評価を可能な限り治療開始前に行うことが望まれますが、ショック、急速な呼吸不全、意識障害、喀血、急速に進行する肺陰影など、生命を脅かす病態では検査の完了を待って治療を遅らせるべきではありません。特にハイリスク患者での進行性呼吸症状や持続発熱は、迅速な感染症・呼吸器・血液内科等との連携を要する徴候です。
実務上は、血液培養を複数セット採取し、中心静脈カテーテルがあれば感染源として評価します。肺病変では胸部CTを行い、可能であれば喀痰、気管支肺胞洗浄液、気管支鏡下検体を用いて培養、鏡検、抗原検査、核酸検査を検討します。画像所見は病原体や免疫状態で変化し、単独で確定診断には至りませんが、病変の分布、侵襲性、経時変化を捉えるうえで重要です。
血清β-D-グルカンは、カンジダ症やアスペルギルス症などで補助診断に役立つ場合がありますが、真菌種によって反応性が異なり、医療材料、血液製剤、一部の治療・処置、細菌感染などによる偽陽性も考慮します。また、ムーコル症ではβ-D-グルカンやガラクトマンナンが診断に有用でないことがあり、陰性結果のみで侵襲性真菌症を除外することはできません。検査結果は、検体の質、採取時期、抗真菌薬の先行投与、画像、宿主因子と統合して解釈します。
IDSA:Aspergillosis Clinical Practice Guideline
医療従事者が内臓真菌症の症状を評価する際は、「典型的な症状がそろうまで待つ」ことを避ける必要があります。免疫抑制患者では炎症反応が十分に上がらない、咳嗽や喀痰が乏しい、画像異常が短期間で変化するなど、一般的な肺炎・敗血症の経過と異なることがあります。日々の診療では、体温だけでなく、酸素需要、呼吸数、血圧、意識、尿量、肝腎機能、血球数、炎症反応、画像の推移を時系列で追跡します。
カンジダ血症では、血液培養の陰性化確認、感染源となりうるカテーテルの評価、深部臓器病変の検索が重要です。CDCは、侵襲性カンジダ症の症状が非特異的で、発熱・悪寒が抗菌薬に反応しないことがあるとしています。眼症状として霧視、飛蚊症、視力変化を自覚する場合は、眼内炎を含む播種病変も念頭に置き、速やかに評価します。
患者説明では、内臓真菌症は「うつるカビ」という単純な理解ではなく、免疫状態や医療デバイス、治療歴、基礎疾患と関係して発症しうる深部感染症であることを共有します。発熱の持続、息切れ、胸痛、強い腹痛、意識の変化、視力低下、血痰・喀血などは緊急度が高い症状であり、外来・病棟を問わず迅速な再評価と専門科連携を行うべきです。
内臓真菌症の診療では、症状だけで診断を固定せず、宿主リスク、病変部位、画像、培養・抗原・病理所見を反復して見直すことが、見逃しと不必要な抗真菌薬投与の双方を減らす鍵となります。とくに重症例では、感染症専門医、血液内科、呼吸器内科、集中治療、放射線診断、眼科、微生物検査部門などの多職種連携を早期から組み込むことが重要です。

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