内視鏡的粘膜下層剥離術のKコード算定実務

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に関連するKコードを、食道・胃・十二指腸・大腸の区分別に整理し、算定対象、点数、施設基準、同時算定時の注意点を解説します。レセプト請求で確認すべき要件を把握できているでしょうか?

内視鏡的粘膜下層剥離術 kコードの基礎知識と核心ガイド

ESD算定コードの実務整理
臓器別にKコードが異なる

ESDは単一のKコードではなく、食道、胃・十二指腸、大腸で異なる手術料区分と算定要件が定められています。

病変と切除方法を確認する

高周波切除器による全周切開、粘膜下層剥離、一括切除という手技要件と、病変の大きさ・病理条件の確認が重要です。

施設届出と同時算定に注意する

年間実績、経験医師、緊急手術体制などの施設基準を満たしたうえで、止血術等の包括関係も確認して請求します。

内視鏡的粘膜下層剥離術とKコードの位置付け


内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)は、早期消化管腫瘍に対し、内視鏡下で病変周囲を切開し、粘膜下層を剥離して病変を一括切除する手技である。分割切除になりやすい従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)と比較して、病変を一括で切除し、病理学的評価を行いやすい点に臨床的意義がある。
診療報酬上、「内視鏡的粘膜下層剥離術」という名称だけで横断的に算定するKコードはない。実際の請求では、病変部位に応じて、食道はK526−2、胃・十二指腸はK653、大腸はK721−4を選択する。したがって、術式がESDであることのみを確認するのではなく、病変部位、対象疾患、腫瘍径、切除範囲、一括切除の成否、施設基準の届出状況をセットで確認する必要がある。
令和8年度の医科診療報酬点数表では、ESD関連の代表的な区分として、K526−2「内視鏡的食道粘膜切除術」、K653「内視鏡的胃、十二指腸ポリープ・粘膜切除術」、K721−4「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」が設けられている。名称に「粘膜切除術」と含まれていても、その枝番・区分の中に粘膜下層剥離術が位置付けられている点は、コード検索やレセプト点検で見落としやすいポイントである。令和8年度医科診療報酬点数表(特掲診療料)


参考)第2章 特掲診療料

食道・胃・十二指腸・大腸のESD関連コード

ESDに関する主なKコードと所定点数は、以下のように部位別に整理できる。食道ではK526−2の「2 早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術」、胃ではK653の「2 早期悪性腫瘍胃粘膜下層剥離術」、十二指腸では同じK653の「3 早期悪性腫瘍十二指腸粘膜下層剥離術」、大腸ではK721−4「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」を用いる。

項目 基準・内容 備考
食道ESD K526−2の「2 早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術」:22,100点 同一Kコード内に早期悪性腫瘍粘膜切除術の区分もあるため、枝番選択に注意する
胃ESD K653の「2 早期悪性腫瘍胃粘膜下層剥離術」:18,370点 胃病変に対するESDはK653の区分「2」で算定する
十二指腸ESD K653の「3 早期悪性腫瘍十二指腸粘膜下層剥離術」:21,370点 胃ESDと同じK653だが、十二指腸病変は区分「3」を選択する
大腸ESD K721−4「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」:22,040点 バルーン内視鏡の要件を満たす場合、450点の加算がある

食道のK526−2「2」は22,100点であり、早期悪性腫瘍粘膜切除術の8,840点とは別区分である。胃ESDは18,370点、十二指腸ESDは21,370点とされており、いずれもK653の中で区別される。K653の「2」および「3」は、病変部を含む3cm以上の範囲を一括切除した場合に算定する通知上の要件が示されているため、内視鏡所見、手術記録、切除標本の記録の整合を確認したい。


参考)K653 内視鏡的胃、十二指腸ポリープ・粘膜切除術
大腸ESDのK721−4は22,040点である。通知では、高周波切除器を用いて病変周囲を全周性に切開し、粘膜下層を剥離して一括切除した場合に算定するとされる。対象は原則として最大径2cm以上の早期癌、または最大径5mmから1cmまでの神経内分泌腫瘍である。ただし、線維化を伴う早期癌では、最大径が2cm未満であっても算定可能とされている。


参考)K721−4 早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術

大腸ESDで確認する算定要件と包括関係

大腸ESDでは、病変サイズだけでコードの可否を短絡的に判断しないことが重要である。K721−4では、最大径2cm以上の早期癌、または最大径5mmから1cmまでの神経内分泌腫瘍を対象とするが、線維化を伴う早期癌は2cm未満でも算定できる。病変径、病理診断、線維化の有無、実施した剥離手技を、診療録と手術記録で一貫して残すことが請求根拠になる。
また、K721−4は短期間または同一入院期間中であれば、実施回数にかかわらず第1回目の実施日に1回に限って算定する取扱いである。同一入院中に複数病変へESDを行ったケースや、計画的・追加的な処置があるケースでは、単純に病変数や施術回数に応じて反復算定する運用はできないため、算定単位を事前に確認する必要がある。


  • ESDと同時に施行した内視鏡的止血術の手技料は、K721−4の所定点数に含まれ、別途算定できない
  • バルーン内視鏡加算450点は、通常の大腸ファイバースコピーで病変に到達できず、腹腔内癒着などを理由としてバルーン内視鏡を用いた場合に限られる
  • バルーン内視鏡を使用した事実だけでは加算の根拠にならず、通常内視鏡で到達できなかった経緯を診療録に明確に記録する
  • 病変周囲の全周切開、粘膜下層剥離、一括切除という術式要件を満たすかを、術者記録および内視鏡レポートで確認する

特に止血術の扱いは、レセプトの重複算定として指摘されやすい論点である。ESD施行中に出血予防または止血目的でクリップ、凝固、その他の内視鏡的止血操作を行うことは少なくないが、K721−4と同時に行った内視鏡的止血術の手技料は別算定できない。術後出血などの別時点の処置については、実施日、臨床経過、処置目的、ESDとの時間的関係を個別に整理して判断することが求められる。


施設基準と院内で整えるべき体制

早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術を保険診療で算定するためには、施設基準の届出が前提となる。主な基準として、当該医療機関における粘膜下層剥離術の年間実施件数が20件以上であること、消化器内科・消化器外科・内視鏡内科・内視鏡外科のいずれかを標榜していること、消化管内視鏡手術について5年以上の経験を有する常勤医師を配置していること、緊急手術が可能な体制を有することが示されている。


参考)早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術の施設基準(ts12-1-K7…
年間20件の実績には、大腸ESDのみならず、K526−2の「2」、K653の「2」および「3」、K721−4に該当する粘膜下層剥離術が対象として整理される。すなわち、食道、胃、十二指腸、大腸のESD実績を適切に集計し、施設基準の維持管理に用いる運用が必要になる。症例台帳と診療報酬請求データの間で件数差が生じないよう、医事課、内視鏡センター、診療情報管理部門が共通の集計定義を持つことが望ましい。


緊急手術体制は、単に外科医が在籍しているかという形式的な問題ではない。穿孔、制御困難な出血、偶発症発生時に、院内で迅速に外科的対応へ移行できる連携、当直体制、麻酔・手術室の運用、輸血や集中治療への導線を具体化しておく必要がある。届出時だけでなく、医師異動、手術室再編、救急受入体制の変更時にも、施設基準への影響を再点検することが実務上重要である。

レセプト・記録で押さえる実践ポイント

ESD関連の請求では、Kコードの入力正誤だけでなく、診療録、内視鏡レポート、手術記録、病理結果、レセプト摘要の内容に矛盾がないことが重要である。特に大腸病変では、2cm以上の早期癌であること、神経内分泌腫瘍であれば5mmから1cmまでであること、または2cm未満でも線維化を伴う早期癌であることを、根拠とともに確認する。病理結果が後日確定するケースでは、術前・術中診断、術後病理、最終請求内容の整合性を丁寧に確認したい。
記録には、病変部位、病変径、形態、術前診断、切開範囲、使用機器、高周波処置の実施、粘膜下層剥離の実施、一括切除か分割切除か、偶発症、止血操作、切除標本の回収状況を具体的に残すことが有用である。大腸ESDでバルーン内視鏡加算を算定する場合には、通常の大腸ファイバースコピーでは上行結腸または盲腸の病変部位まで到達できなかったこと、その原因が腹腔内癒着等であること、バルーン内視鏡によってESDを実施したことを、診療録上で追えるようにする。
また、ESDは高度な内視鏡治療であり、算定要件を満たしていても、個別症例の適応判断、偶発症対策、追加外科切除の要否は、消化器内視鏡診療ガイドライン、病理学的評価、多職種カンファレンスなどを踏まえて判断する必要がある。本稿は診療報酬上のKコード整理を主眼とするものであり、保険請求の最終判断では、当該時点で有効な告示、通知、疑義解釈、施設基準通知および地方厚生局への届出内容を必ず確認する。





粘膜剥離子 /8-4599-01