全国の国立大学病院の経営状況は、2024年度から2025年度にかけて過去最悪の水準に悪化しています。国立大学病院長会議が2025年7月に発表した2024年度決算概要によると、全国42の国立大学病院のうち29病院で経常損益がマイナスとなり、経常損益総額は285億円の赤字となりました。これは2023年度の60億円赤字から大幅な悪化で、2004年の国立大学法人化以降最大の赤字額を記録しています。
参考)国立大学病院285億円赤字|アローズヘルスケア コラム
国立大学病院の赤字が拡大している背景には、主に4つの支出増要因が複合的に作用しています。第一に、医師の働き方改革(2024年4月開始)に伴う人件費の増加です。2024年度から2025年度にかけて、人件費は325億円(約6%)増加しており、これは時間外労働の規制による追加の人員配置、人事院勧告・物価高騰を受けた給与水準の上昇、看護師不足による人材紹介会社への手数料や委託費の高騰などが背景にあります。特に国立大学病院は教育・研究機能を担うため人的コストが高く、この増加が経営を直撃しています。
第二に、医療の高度化に伴う高額医薬品・診療材料の使用量増および価格高騰です。2024年度から2025年度にかけて、医療費は258億円(約4%)増加しており、数千万円規模の高額薬剤や手術支援ロボットなどの高度医療機器にかかるコストが増大しています。これらの費用は健康保険で全て賄われるわけではなく、病院の自己負担が大きいことが赤字要因となっています。
参考)https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/medicom-medicalnews/80099
| 支出増要因 | 増加額(2024→2025年度) | 主な内容 |
|---|---|---|
| 人件費 | 325億円(約6%増) | 働き方改革、人事院勧告、人材不足 |
| 医療費(医薬品・診療材料) | 258億円(約4%増) | 高額薬剤、ロボット手術、高度医療 |
| 光熱水費 | エネルギー価格高騰 | 電気・ガス・水道費の上昇 |
| 業務委託費・保守費 | 物価高騰・賃金増 | 清掃・警備・設備保守の委託費増 |
第三に、エネルギー価格高騰の影響による光熱水費の増加、第四に、物価高騰・賃金の増加による業務委託費や保守費の増加です。これらの固定費増加は経営努力では抑制が難しく、現金収支の悪化を加速させています。さらに、2004年の法人化以降、国からの運営費交付金が年々減少しており、補助金収入もコロナ支援金の収束で減少したことが経営を圧迫しています。診療報酬(医療行為ごとの公定価格)は国が決めるため、病院側で価格転嫁ができず、コスト増を吸収できない構造的なジレンマも赤字継続の根本原因となっています。
参考)国立大学病院が400億円の赤字見込み「過去最大の危機を迎えて…
参考)https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/d9ed3e3d199fa4166cfe4cb1e6e6cdcdcabc9c86
ただし、広島大学病院にも課題はあります。高コスト体質からの脱却がその一つで、外科医の減少(外科離れ)を食い止めるため、2025年度から外科医を目指す研修医に対して「未来の外科医療支援手当」として年120万円を支給する施策を開始しています。このように、黒字病院であっても継続的な経営改善と医師育成への投資が不可欠です。
国立大学病院の経営悪化は、単なる数字上の赤字にとどまらず、日本の医療基盤そのものに深刻な影響を及ぼしています。国立大学病院長会議の大鳥会長は「困っているのは新たな医療機器を買えないことや施設整備が止まっていることだ」と窮状を訴えています。現金収支の悪化により、設備投資は前年度から76億円(同27%)減少しており、最新の医療機器の導入や施設の修繕が遅れることで、将来的な安全性や医療の質への懸念が高まっています。
また、大学病院の機能である高度医療・研究・教育にも深刻なしわ寄せが出始めています。減価償却費を含む経常損益は29病院で赤字となり、2025年度も25病院で現金収支がマイナスの予測で先は明るくありません。赤字削減の余波で研究費や教育予算が削減され、医師育成や先端医療研究が困難になることで、日本の医療の未来そのものが危ぶまれています。地域医療の根幹を担う国立大学病院の経営破綻は、救急医療・がん治療・周産期医療など収益性の低い領域を多く担っているため、地域住民の生命に直結する問題です。
参考)国立大学病院「7割が赤字」の衝撃。医療現場からも悲鳴、地域医…
この状況を受け、国立大学病院長会議は2026年度の診療報酬を11%引き上げる改定を国に要望しています。しかし、診療報酬改定は2年に1度しか行われず、物価高や人件費増のスピードに追いつかないのが実情です。抜本的な制度改革や公的支援の拡充が急務ですが、国の対応は遅れており、政治的な判断が求められる局面です。
医療従事者、特に管理職や経営企画に関わる方は、以下の経営指標を定期的にモニタリングし、早期に経営悪化の兆候を察知することが重要です。
しかし、これらの経営努力にも限界があり、診療報酬の公定価格制や運営費交付金の減少といった構造的な問題に対しては、国レベルでの制度改革や補正予算などの公的支援が不可欠です。医療従事者は、自病院の経営状況を正確に把握し、必要な施策を講じるとともに、業界団体を通じて国への要望活動を継続することが、日本の医療基盤を維持するために重要です。国立大学病院長会議、次期改定11%増を国に要望|メディコム