
ケイキサレート(一般名:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)は、高カリウム血症改善剤として長年使用されてきた陽イオン交換樹脂製剤であり、鳥居薬品株式会社がケイキサレート散およびケイキサレートドライシロップ76%を製造販売してきました。 2026年1月、鳥居薬品は「諸般の事情により」ケイキサレート散・ドライシロップ76%の販売中止を予定する旨を医療機関・薬局向けに正式通知し、2026年11月から経過措置品目へ移行、2027年3月31日に経過措置期間満了および薬価基準削除を予定していると公表しています。 公式文書では「諸般の事情」としか明記されていませんが、同社は問い合わせ窓口(お客様相談室)を設置し、医療機関からの個別相談に応じる体制をとっています。
参考)https://x.com/DSJP_info/status/2008426002452820420
販売中止理由については、現時点で安全性上の重大な新規シグナルや特定ロットの品質問題などが原因とされた公式情報は確認されておらず、ケイキサレートに固有の新たなリスクが直接の引き金になったというエビデンスは公表されていません。 一方で、高カリウム血症治療領域では新規カリウム結合薬の登場や、より選択性の高い製剤へのシフトが世界的に進んでおり、古いナトリウム型レジン製剤の需要縮小や採算性の低下が背景にある可能性が指摘されています。 また、海外では古くからポリスチレンスルホン酸ナトリウムとソルビトール併用時の消化管壊死リスクが議論されてきたこともあり、企業側として長期的な製品ポートフォリオを見直す中で、ケイキサレートを段階的に終了させる判断に至ったと考えるのが自然です。
参考)医療用医薬品 : ケイキサレート (ケイキサレートドライシロ…
消化管関連の有害事象については、複数の症例報告や後ろ向き研究で「重篤な消化管壊死は主にソルビトール併用製剤で目立つ」とされており、ソルビトールを併用しない単剤使用ではリスクが相対的に低い可能性が示唆されています。 しかし、ハイリスクな腸管虚血や術後患者など特定集団においては、いわゆる「レジン腸壊死(resin-associated colonic necrosis)」が致命的となりうることから、ガイドラインやレビューでは慎重な使用を求めるトーンが強まっていました。 日本の添付文書でも、腸閉塞や重篤な便秘など消化管合併症に対する注意喚起がなされており、製造販売後も適正使用上の警告・注意が強化されてきた経緯があります。
参考)ケイキサレート散の基本情報(薬効分類・副作用・添付文書など)…
このように、「ケイキサレート販売中止理由」は単一のリスク事象に帰するというより、長年の安全性プロファイル、新規薬剤の普及、市場規模や企業戦略など複数要因が絡み合った結果と解釈するほうが妥当といえます。 実務上は「突然の安全性問題」というより、「計画的な経過措置を伴う段階的な終売」である点を、医師・薬剤師・看護師が患者説明の中で丁寧に伝えることが重要になります。
ケイキサレート販売中止に関する公式通知(PDF)原文を確認したい場合、鳥居薬品と各地域薬剤師会サイトに掲載されている通知文書が参考になります。以下は、経過措置期間や問い合わせ窓口など実務に直結する情報を含む資料です。
鳥居薬品「ケイキサレートR散・ケイキサレートRドライシロップ76% 販売中止のお知らせ」(販売中止時期と経過措置の詳細)
ケイキサレート販売中止の背景を理解するには、高カリウム血症治療における位置づけの変遷を押さえる必要があります。 ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)は、慢性腎不全や透析患者、RAAS阻害薬投与中の患者などに生じる高カリウム血症に対して、長年「経口または経管投与によるカリウム除去薬」として用いられてきました。 しかし、その作用発現時間は数時間オーダーであり、急性の致命的高カリウム血症に対する第一選択はあくまでカルシウム製剤、インスリン・ブドウ糖、β2刺激薬、透析などであることは各種ガイドラインでも繰り返し強調されています。
実臨床では、ケイキサレートは急性期治療ののちに「カリウム負荷の持続に対する補助療法」として位置づけられ、慢性期の高カリウムコントロールや再発予防の一環として処方される場面が多くありました。 一方、ナトリウム負荷や消化管障害のリスクを背景に、少なくとも欧米の文献では「古典的レジン製剤のベネフィットは限定的であり、特に無症候性の軽~中等度高カリウム血症に対する routine な使用は再考すべき」とする意見も増えていました。
近年、日本を含む各国で登場した新規カリウム結合薬(例:パチロマー、ナトリウムジルコニウムシクロシリケートなど)は、選択的なカリウム捕捉作用と、ナトリウム負荷を抑えた設計により、安全性プロファイルの改善が期待されています。 これにより、高カリウム血症治療のアルゴリズムは「急性期救命処置+慢性期の安全なカリウム結合薬」という方向性へシフトしつつあり、古いナトリウム型レジンの存在意義は徐々に縮小していました。
ケイキサレート販売中止理由の一つとして、この「治療パラダイムの変化」が挙げられます。 新しい薬剤により、RAAS阻害薬の減量・中止を避けながらカリウムコントロールを図る戦略が容易になり、特に心不全や糖尿病合併CKD患者においては、心血管予後の改善と高カリウム管理の両立を目指すアプローチが重視されています。 その結果、ケイキサレートをはじめとする古典的レジン製剤の使用頻度は減少し、一部の施設ではすでに新規薬剤への置き換えが進んでいたことから、企業としても医療現場としても「ある程度予想された終売」であった側面があります。
他方で、すべての患者が新規カリウム結合薬の恩恵を受けられるわけではなく、費用負担、保険適用条件、併用薬、腸管の状態などを踏まえた個別検討が必要です。 特に、慢性期の軽度高カリウム血症をケイキサレートで「何となく」抑えていた症例では、販売中止を契機に、そもそもの原因薬(ACE阻害薬、ARB、MR拮抗薬など)の投与量、食事・サプリメント、代謝性アシドーシスの是正などを包括的に見直す良い機会ともなります。
高カリウム血症治療に関するレビュー(英語)では、古典的レジン製剤の位置づけと新規薬剤の登場による変化が詳述されています。特に、慢性心不全やCKD患者でのRAAS阻害薬継続を重視する文脈で、カリウム結合薬の役割が整理されています。
高カリウム血症の総説(治療アルゴリズムとレジン製剤の位置づけ)
ケイキサレート散販売中止後の代替薬と対応策(高カリウム血症治療の解説)
ケイキサレート販売中止の実務的な影響として、もっとも重要なのは「高カリウム血症患者への代替薬選択」と「既存レジメンの見直し」です。 多くの医療機関では、ケイキサレートの在庫状況を踏まえ、経過措置期間中に代替薬への切り替えを計画的に進める必要があります。 代替薬候補としては、同じレジン系のカルシウム型ポリスチレンスルホン酸(例:カルケン、カリメートなど)、新規カリウム結合薬(パチロマー、ナトリウムジルコニウムシクロシリケート)、あるいは透析頻度・ドライウェイト調整など、薬剤以外の介入も含めて検討されます。
レジン系代替薬の選択では、ナトリウム負荷を避けたい心不全・高血圧患者ではカルシウム型レジンが、逆に高カルシウム血症やカルシウム負荷を避けたい症例では、ナトリウム型または新規薬剤が相対的に有利とされます。 ただし、いずれのレジンも便秘、腸閉塞、腸管壊死などのリスクを共有しているため、腸管の解剖学的異常や重度の便秘歴のある患者では慎重投与または回避が推奨されます。 この点で、新規カリウム結合薬は、消化管安全性プロファイルや患者受容性の点で優位性が示されつつありますが、長期的なリアルワールドデータの蓄積はまだ途上であることも念頭に置く必要があります。
代替薬への切り替え時には、以下のようなポイントを体系的にチェックすると実務上の抜け漏れが少なくなります。
これらを踏まえ、例えば「RAAS阻害薬を維持したい心不全患者」では新規カリウム結合薬を優先し、「費用負担が大きな課題となる透析患者」ではカルシウム型レジン+透析調整を組み合わせるなど、患者ごとに最適なスキームを設計します。
意外な点として、ケイキサレート販売中止は「レジンを使うかどうか」だけでなく、「そもそも高カリウム血症の治療目標値やフォローアップ頻度を再定義する契機」となりうることが挙げられます。 たとえば、軽度の持続的高カリウム血症(5.0〜5.5 mmol/L)に対して、従来は惰性的にレジンを継続していた症例でも、食事指導や利尿薬調整、RAAS阻害薬の微調整によって薬剤負荷を減らせる可能性があります。 この視点は、ポリファーマシーの是正と薬剤起因有害事象の減少にもつながるため、薬剤部や多職種チームでのケースカンファレンスを通じて、個々の症例に最適なバランスを模索することが重要になります。
日本語で代替薬や切り替えの実務に詳しい情報を得たい場合、医師・薬剤師向けの解説記事が参考になります。ケイキサレート散販売中止後の代替薬選択や注意点が整理されています。
ケイキサレート散販売中止後の代替薬と対応策(日本語解説記事)
ケイキサレート販売中止は、高カリウム血症治療そのものだけでなく、病院・クリニック・保険薬局の業務フローにも影響を及ぼします。 経過措置期間が設定されているとはいえ、2027年3月31日以降は薬価基準から削除されるため、処方継続が事実上不可能になる点を念頭に置き、逆算して切り替え計画を立てる必要があります。 特に、長期処方でケイキサレートが継続されている外来患者では、「処方箋発行→調剤→服薬」までの流れの中で、「いつ・誰が・どのように」変更を伝えるかを明確にしておくことが重要です。
薬剤部としては、以下のような対応が求められます。
また、地域連携の観点では、透析クリニックと基幹病院、保険薬局との情報共有が不可欠です。 たとえば、透析患者が複数の医療機関から処方を受けている場合、ケイキサレートの処方元と新規薬剤の処方元が異なることで、二重処方や切り替え漏れが生じるリスクがあります。 こうしたリスクを低減するため、電子カルテ・地域連携パス・お薬手帳などを活用し、「ケイキサレートからの切り替え時期・代替薬・フォロー計画」を明示しておくとよいでしょう。 m-p-a(http://m-p-a.jp/pdf/1.(4)%EF%BC%BF%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E4%B8%AD%E6%AD%A2%E3%80%81%E5%87%BA%E8%8D%B7%E5%81%9C%E6%AD%A2%E7%AD%89%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81%E3%81%AE%E5%88%87%E3%82%8A%E6%9B%BF%E3%81%88%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6202401.pdf)
意外な実務的論点として、「院内採用薬の見直し」のタイミングが挙げられます。 ケイキサレートの終売に伴い、同系統の他社製品や新規カリウム結合薬を採用するかどうかは、薬事委員会や医薬品適正使用委員会での議論が必要です。 特に、新規薬剤は薬価が高く、院内財政への影響も大きいため、「どの患者群に優先的に使うのか」「既存レジンとどう使い分けるのか」を、エビデンスと経済性の両面から検討することが求められます。
参考)販売中止品・経過措置のお知らせ(経過措置対象外品は除く)
各地域の医師会・薬剤師会がまとめた「販売中止・出荷停止に伴う切り替え情報」は、実務の参考になります。 これらの資料では、ケイキサレート以外の多くの医薬品についても、販売中止や出荷調整の情報が一覧化されており、薬剤部で定期的にチェックしておくことが推奨されます。
販売中止品・経過措置品目の一覧は、製薬企業やジェネリックメーカーの情報ページでも公開されています。
販売中止品・経過措置情報一覧(日医工の情報ページ)
ケイキサレート販売中止理由の議論は、安全性や企業戦略に焦点が当たりがちですが、医療従事者の立場から見ると、「ポリファーマシー是正」と「患者教育」の絶好の機会でもあります。 高カリウム血症患者では、ACE阻害薬、ARB、MR拮抗薬、SGLT2阻害薬など多剤併用が一般的であり、ケイキサレートはその「副作用対策」として漫然と追加されてきたケースも少なくありません。 ケイキサレートの終売をきっかけに、これらのレジメンをゼロベースで見直すことで、薬剤数の削減や有害事象リスクの低減につながる可能性があります。
たとえば、以下のような観点が挙げられます。
これらのプロセスを通じて、患者自身が「なぜ高カリウム血症になるのか」「どの薬がどのように影響しているのか」を理解しやすくなり、自己管理能力の向上にも寄与します。 また、医療従事者側も、単に「同じクラスの別薬へ切り替える」のではなく、「薬剤負荷全体を減らす」「生活習慣や他の治療戦略を組み合わせる」という視点を持つことで、治療の質を高めることができます。
興味深い点として、海外の一部報告では、ケイキサレートなどのレジン使用が減少した後も、高カリウム血症関連の入院や致命的イベントが増加しなかった、あるいはむしろ減少したとするデータもあります。 これは、レジンの代わりに導入された新規薬剤や治療アルゴリズム全体の改善が寄与している可能性があり、「古い薬を減らす=リスクが増える」とは限らないことを示唆しています。
こうした背景を踏まえると、ケイキサレート販売中止理由は単なる「供給終了」ではなく、「医療全体のアップデートの一部」として捉えることができます。 実務的には負担も大きい変化ですが、中長期的には、より安全で合理的な高カリウム血症管理への移行を促す契機となる可能性があります。
参考になる日本語情報として、高カリウム血症治療におけるレジン使用の再評価や新規薬剤の位置づけを解説した記事があります。
高カリウム血症におけるレジン使用の再評価と新規薬剤の役割(日本語レビュー)
ケイキサレート散販売中止後の代替薬と対応策(ポリファーマシー是正の視点)
最後に、ケイキサレート販売中止後も継続的に情報をアップデートするためのポイントを整理します。 医薬品の販売中止や出荷調整は、今後も他剤で繰り返し発生する可能性が高く、今回の経験を活かした「情報収集とフィードバックの仕組みづくり」が重要です。 具体的には、PMDAの添付文書更新情報や厚生労働省の通知、製薬企業の医療関係者向けサイトを定期的にチェックし、重要な変更を院内・薬局内で共有する体制を整えることが有効です。
参考)https://www.info.pmda.go.jp/osearch/tenpulist.jsp?DATE=20240711
ケイキサレートに関しては、今後も以下のような情報がアップデートされる可能性があります。
これらをフォローするうえで、薬剤部や医薬品情報室が「ハブ」となり、院内外の医療従事者にタイムリーに情報を届ける役割を担うことが期待されます。 また、学会や研究会での症例報告やリアルワールドデータの発表にもアンテナを張り、自施設の経験と照らし合わせながら実践的な知見を蓄積していくことが重要です。 m-p-a(http://m-p-a.jp/pdf/1.(4)%EF%BC%BF%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E4%B8%AD%E6%AD%A2%E3%80%81%E5%87%BA%E8%8D%B7%E5%81%9C%E6%AD%A2%E7%AD%89%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81%E3%81%AE%E5%88%87%E3%82%8A%E6%9B%BF%E3%81%88%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6202401.pdf)
PMDAの添付文書更新情報ページでは、直近1か月に更新された医薬品の添付文書情報が一覧で確認でき、販売中止や注意事項の変更などの情報収集に有用です。
直近1か月に更新された添付文書情報一覧(PMDA)
さらに、地域薬剤師会や医療機関向けの「販売中止・出荷停止等に伴う切り替え情報」は、個々の製品だけでなく、「医療全体でどのように対応しているか」を俯瞰するうえでも役立ちます。 ケイキサレート販売中止理由を含む一連の動きは、高カリウム血症治療だけでなく、医薬品供給と臨床現場の連携の在り方を考える良いケーススタディといえるでしょう。 m-p-a(http://m-p-a.jp/pdf/1.(4)%EF%BC%BF%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E4%B8%AD%E6%AD%A2%E3%80%81%E5%87%BA%E8%8D%B7%E5%81%9C%E6%AD%A2%E7%AD%89%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81%E3%81%AE%E5%88%87%E3%82%8A%E6%9B%BF%E3%81%88%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6202401.pdf)
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