カルバペネム系抗菌薬は「注射でしか使えない」と思っているなら、てんかん患者の命を危険にさらしているかもしれません。
カルバペネム系抗菌薬は広域スペクトラムを持つβ-ラクタム系抗生物質であり、通常は化学的不安定性から経口吸収性が低く、注射剤が主流です。 胃酸や消化酵素による加水分解が起こりやすく、内服剤の開発は長年困難とされていました。
しかし2009年に国内で承認されたテビペネムピボキシル(オラペネム小児用細粒10%)は、プロドラッグ化技術によりこの問題を克服した唯一の経口カルバペネムです。 ピボキシルエステル結合を導入することで消化管吸収性を高め、体内で活性体のテビペネムに加水分解されます。
参考)経口カルバペネム系抗菌剤「オラペネム®小児用細粒10…
つまり、構造上の工夫で「飲めるカルバペネム」を実現したということです。
| 薬剤名 | 剤形 | 一般名 | 対象 |
|---|---|---|---|
| オラペネム小児用細粒10% | 経口(細粒) | テビペネムピボキシル | 小児のみ |
| メロペン注 | 注射 | メロペネム水和物 | 成人・小児 |
| フィニバックス注 | 注射 | ドリペネム水和物 | 成人・小児 |
| チエナム注 | 注射 | イミペネム/シラスタチン | 成人・小児 |
カルバペネムの内服剤は現在1種類だけです。 注射剤と用途や対象が明確に異なるため、まったく別物として理解することが原則です。
参考:カルバペネム系抗生物質の解説(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/カルバペネム系抗生物質
オラペネムの適応症は、肺炎・中耳炎・副鼻腔炎の3疾患に限定されています。 ただし「これら3疾患であれば何でも使ってよい」というわけではありません。添付文書には「他の抗菌薬による治療効果が期待できない症例に限り使用すること」と明記されています。
広域カルバペネムを最初から選択することは、耐性菌出現のリスクを高めます。これが条件です。
適応菌種は以下の5菌種に絞られています。
腸球菌やMRSAには基本的に無効であることも見落としがちです。 マイコプラズマやクラミジアのような細胞壁を持たない菌にも作用しません。
用法・用量は「通常、小児にテビペネムピボキシルとして1回4mg/kgを1日2回食後に経口投与、必要に応じ1回6mg/kgまで増量可」で、投与期間は7日間以内が目安とされます。 漫然とした長期投与は避けるべきです。 オラペネム小児用細粒10%の基本情報(副作用・効果効能・電子…
参考:オラペネム小児用細粒10% 添付文書(Medley)
オラペネム小児用細粒10% - 添付文書
カルバペネム系抗菌薬(注射・内服を問わず全剤)とバルプロ酸ナトリウムの併用は絶対禁忌です。 小児のてんかんでバルプロ酸が処方されているケースは少なくなく、オラペネムを処方する際には必ず確認が必要です。
参考)バルプロ酸の服用患者にカルバペネムが出たときの3つの対応策
バルプロ酸の血中濃度は、カルバペネムとの併用で約80%低下、つまり約1/5の水準まで落ちることが報告されています。 治療域(40〜120μg/mL)を大幅に外れるため、ほぼすべての患者で発作誘発リスクが現実のものになります。
痛いですね。しかも機序が完全には解明されていません。
参考)全日本民医連
現時点で有力とされているのは、カルバペネムがバルプロ酸のグルクロン酸抱合代謝を亢進させるという説です。 タンパク結合の競合も要因の一つとして挙げられています。
やむを得ず感染症治療を優先する場合には、非酵素誘導型抗てんかん薬の一時的な追加投与が選択肢となります。 カルバペネム終了後もバルプロ酸の血中濃度が戻るまでに約2週間かかることがあり、この間は追加した抗てんかん薬を継続するのが安全です。
処方前に必ず内服薬のチェックが条件です。
参考:バルプロ酸の服用患者にカルバペネムが出たときの3つの対応策
バルプロ酸の服用患者にカルバペネムが出たときの3つの対応策
テビペネムピボキシルの「ピボキシル」という名前に注目してください。ピボキシル基を持つ抗菌薬(セフカペン、セフジトレン、テビペネムなど)は体内でカルニチンを消費することが知られています。 これは注射用カルバペネムには存在しない、経口カルバペネム固有のリスクです。
意外ですね。
カルニチンはミトコンドリアでの脂肪酸β酸化に不可欠な物質です。これが枯渇すると、エネルギー産生が障害されて低血糖が起こります。 特に乳幼児では体内カルニチン貯蔵量が少ないため、短期間の投与でも影響が現れやすいです。
これらの症状が投与中・投与後に出現した場合は、低カルニチン血症に伴う低血糖を疑い、直ちに投与を中止します。
ピボキシル基を持つ抗菌薬を複数併用している場合や、栄養状態が不良な小児ではリスクがより高まります。複数のピボキシル系薬が重なっていないか処方歴全体を確認することが実践的な対策です。
日本は世界的に見て抗菌薬の外来処方量が多い国です。カルバペネムの「飲み薬版」が存在することで、外来での安易な使用が増えるリスクがあります。AMR(薬剤耐性)対策の観点では、オラペネムは「最後の砦として温存すべき薬剤」に位置づけられています。
つまり、使えるからといって使っていい薬ではないということです。
添付文書でも「カルバペネム系抗生物質の臨床的位置づけを考慮した上で、他の抗菌薬による治療効果が期待できない症例に限り使用すること」と明確に使用制限が記載されています。 厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き」も、中耳炎・副鼻腔炎への投与にあたっては手引きを参照して必要性を判断するよう求めています。
AMR対策の国際目標では、2020年代に向けて医療機関でのカルバペネム使用量の適正化が掲げられています。 薬剤師・医師が連携して処方レビューを行うことが、現場で取れる最も直接的なアクションです。これは使えます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf
参考:厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf