
カルバペネマーゼとは、イミペネム、メロペネム、ドリペネムなどのカルバペネム系抗菌薬を加水分解し、不活化し得るβ-ラクタマーゼの総称である。カルバペネムは重症感染症や多剤耐性グラム陰性桿菌感染症で重要な治療選択肢であるため、これを失活させる酵素の保有は、治療選択肢の狭小化と院内伝播の両面で大きな問題となる。
実務では、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌をCRE、カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌をCPEと呼ぶ。両者は同義ではない。CREの耐性機序にはカルバペネマーゼ産生だけでなく、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼやAmpC β-ラクタマーゼの産生に、外膜ポーリン低下・欠損、排出ポンプなどが組み合わさる非カルバペネマーゼ性機序も含まれる。したがって、カルバペネムに耐性または感受性低下を示したという薬剤感受性試験の結果だけから、カルバペネマーゼ産生菌と確定してはならない。
一方、CPEはプラスミドなど可動性遺伝因子を介して耐性遺伝子を獲得・伝播し得ることが重要である。菌種をまたいだ拡散や、保菌患者を起点とする医療機関内の集積・アウトブレイクにつながる可能性があるため、個々の患者の治療にとどまらず、感染対策上の早期把握が求められる。厚生労働省の資料では、日本で届け出られるCREのうち、カルバペネマーゼ産生菌は一部であり、CREとCPEを区別して評価する必要性が示されている。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630929.pdf
JIHS:カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症に関する一般的事項
カルバペネマーゼは、アミノ酸配列と活性中心の特徴に基づくAmbler分類で整理すると理解しやすい。臨床上とくに重要なのは、クラスAのKPC、クラスBのメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)群、クラスDのOXA-48-like群である。クラスAおよびDは活性中心にセリンを用いるセリンβ-ラクタマーゼであるのに対し、クラスBは活性に亜鉛イオンを必要とするMBLである。
クラスBのMBLにはIMP、NDM、VIMなどが含まれる。MBLはカルバペネムを含む多くのβ-ラクタム系薬を加水分解し得る一方、モノバクタム系のアズトレオナムは原則として加水分解しない。しかし実臨床の分離株では、ESBLやAmpC β-ラクタマーゼなどを併産し、アズトレオナムにも耐性を示すことがあるため、「MBLならアズトレオナムが必ず有効」と単純に判断することは危険である。
| Ambler分類 | 主な酵素型 | 特徴・臨床上の着眼点 |
|---|---|---|
| クラスA | KPC、GESの一部 | セリン型カルバペネマーゼ。KPCは国際的に重要であり、阻害薬配合薬の適応評価では酵素型確認が重要となる。 |
| クラスB | IMP、NDM、VIM | MBL。亜鉛依存性であり、従来のセリンβ-ラクタマーゼ阻害薬では阻害されにくい。日本ではIMP型が重要である。 |
| クラスD | OXA-48-like | セリン型。カルバペネムに対する耐性表現型が明瞭でない株もあり、検査上の見逃しに注意を要する。 |
KPCはKlebsiella pneumoniae carbapenemase、IMPはimipenemase、NDMはNew Delhi metallo-β-lactamase、VIMはVerona integron-encoded metallo-β-lactamaseに由来する名称である。OXA-48-likeはオキサシリナーゼ群のうち、OXA-48および近縁酵素を指す。代表的な酵素型はKPCがクラスA、IMP・NDM・VIMがクラスB、OXA-48-likeがクラスDに分類される。
参考)https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.01370-20
IMP型は日本のCPEで特に重要なMBLであり、国内の疫学を理解するうえで最初に押さえるべき酵素型である。厚生労働省の抗微生物薬適正使用に関する資料では、国内で分離頻度が高いCPEの酵素型としてIMP型が大部分を占め、次いでNDM型が報告されている。国内で検出されるCPEの多くはMBL産生菌であることを前提に、微生物検査室、感染制御部門、抗菌薬適正使用支援チームが情報を共有することが重要である。
NDM型は国際的な拡散が問題となっているMBLであり、海外での医療歴、長期滞在歴、国外からの転院・搬送歴などがある患者から検出された場合には、渡航歴のみで断定せずとも疫学的リスクを丁寧に確認する。VIM型もMBLの一種であり、欧州を含む海外での検出報告が多い。いずれも遺伝子がプラスミドなどを介して移動する可能性があり、特定の菌種だけの問題として扱わない姿勢が必要となる。
KPC型はクラスAのセリン型であり、Klebsiella pneumoniaeをはじめとする腸内細菌目細菌で世界的に問題となっている。KPC産生菌では、酵素型と薬剤感受性試験結果を踏まえて、抗菌薬選択を専門的に検討する。OXA-48-like型はクラスDであり、セフェム系薬への耐性を併せ持つ場合がある一方、カルバペネムに対するMIC上昇が強くないこともあり、表現型だけでは検出が難しい局面がある。
国内で問題となる型と海外で多くみられる型を二分法で理解することは有用だが、国際的な人の移動や医療連携により分布は変化し得る。したがって「国内だからIMPのみ」「海外歴がないからNDMやKPCではない」といった固定的な判断は避け、検出状況、患者背景、施設内の疫学情報を統合して評価する。
カルバペネマーゼ検出では、まず日常の薬剤感受性試験でカルバペネムに対する感受性低下・耐性を捉え、その後に確認検査を実施する流れが基本となる。検査法には、カルバペネマーゼによる抗菌薬不活化を利用するmCIM、EDTAなどを用いてMBLの関与を評価するeCIM、イムノクロマトグラフィー法、分子生物学的検査による耐性遺伝子検出などがある。
mCIMはカルバペネマーゼ産生の有無を評価する表現型検査であり、eCIMを組み合わせることでMBLを示唆する所見を得る方法として活用される。遺伝子検査はblaIMP、blaNDM、blaVIM、blaKPC、blaOXA-48-likeなどの標的遺伝子を検出し、酵素型の同定に有用である。ただし、検査パネルに含まれない遺伝子型は検出できず、遺伝子の存在が直ちに発現量や臨床的な薬剤効果を保証するわけでもない。
検査結果を報告する際は、「CREであること」「カルバペネマーゼ産生が確認または疑われること」「MBLが疑われるか」「同定された遺伝子型」「実施した検査法と限界」を可能な範囲で明確にする。感染制御部門への迅速報告は、個室またはコホート管理、標準予防策と接触予防策、患者周辺環境の清掃、保菌状況に応じたスクリーニングなどを検討する起点になる。
Journal of Clinical Microbiology:mCIMplusによるカルバペネマーゼ検出の報告
なお、検査室で得られる「酵素型」の情報は、抗菌薬感受性結果を置き換えるものではない。治療薬を決定する際には、菌種、感染部位、重症度、患者の腎機能、血液培養陽性の有無、ソースコントロールの可否、MICを含む個別の薬剤感受性結果を統合し、感染症専門医またはASTと協働して判断する。
カルバペネマーゼの種類を把握する最終目的は、耐性菌を分類すること自体ではなく、患者アウトカムの改善と伝播防止に結び付けることである。とくにMBL産生菌では、セリンβ-ラクタマーゼを主な標的とする阻害薬配合薬が十分に機能しない場合がある。反対に、KPCや一部のOXA-48-like産生菌では、酵素型と感受性に基づいて検討可能な抗菌薬の考え方が異なる。そのため、「CRE」という一語だけで治療レジメンを決めるのではなく、可能な限り酵素型と個別の感受性結果を確認する意義がある。
重症感染症では、適切な検体採取と血液培養、感染巣の評価、ドレナージやデバイス抜去などのソースコントロールを遅らせないことが重要である。尿からの検出であっても、無症候性細菌尿、尿路感染症、カテーテル関連感染症、菌血症の一部としての尿中検出では臨床的意味が異なる。保菌と感染を区別し、不必要な抗菌薬投与を避けることも、耐性菌選択圧を減らす基本となる。
感染対策では、患者に関わる医療従事者の手指衛生を徹底し、接触予防策の適用、専用または患者別の医療器材の使用、環境清掃、病棟間・施設間移送時の耐性菌情報の確実な伝達を行う。アウトブレイクが疑われる場合には、検出株の時間的・空間的な集積、共通の医療機器・処置・病室環境、患者間の接点を評価し、必要に応じて保健所や専門機関と連携する。
カルバペネマーゼの種類は、IMP、NDM、VIM、KPC、OXA-48-likeを中心に、まずMBLかセリン型かを押さえ、次にAmbler分類、国内外の疫学、検査結果、患者背景を結び付けて読むことが実践的である。カルバペネム耐性という表現型のみで結論を急がず、確認検査と感染対策を同時並行で進めることが、CPEへの安全で再現性の高い対応につながる。