シリンジポンプは、シリンジ内の薬液を設定した速度で持続注入する医療機器です。少量の薬液を一定速度で投与しやすいため、鎮静薬、鎮痛薬、カテコラミン製剤、インスリン、抗不整脈薬など、投与速度の変化が患者状態へ大きく影響し得る薬剤に用いられます。ただし、機器が流量を制御していても、薬剤の選択、希釈・調製、シリンジの装着、投与ルート、設定値、患者観察までが正しくつながらなければ、安全な治療にはなりません。
看護師に求められるのは、単に電源を入れて流量を入力することではありません。医師指示と薬剤ラベルの照合、施設手順に沿った調製内容の確認、機種ごとの操作手順の遵守、開始前のダブルチェック、投与中の患者・機器・ラインの継続観察、アラームへの迅速で原因に基づく対応が重要です。特に、急な中断や予期しない急速投与が重篤な循環・呼吸・鎮静状態の変化につながる薬剤では、残量だけでなく、次の交換時刻や予備シリンジの準備状況も含めた管理が必要です。
なお、ボタン配置、シリンジの装着方法、対応可能なシリンジの種類、流量範囲、アラーム表示、プライミングの操作は機種ごとに異なります。本記事は安全確認の共通原則を示すものであり、実施時は必ず勤務先の手順書、教育内容、使用機種の添付文書・取扱説明書および医師指示を優先してください。
開始前は、患者、薬剤、濃度、投与経路、投与速度、予定量、投与目的を指示と照合します。患者確認は施設の認証手順に従い、薬剤名、規格、投与量、希釈液、総液量、調製日時、使用期限、調製者・確認者などのラベル情報を確認します。複数の持続投与がある患者では、ラインとポンプの対応関係を見える化し、各シリンジとポンプ本体、患者側のラインに同一の薬剤情報を明確に表示することが重要です。
シリンジをセットする際は、使用機種が指定する種類・容量のシリンジを選択し、シリンジ選択が正しいことを画面でも確認します。シリンジのフランジを本体のスリットに確実に装着し、シリンジホルダーを固定します。さらに、押し子とスライダーの間に隙間がなく、密着していることを確認します。PMDAは、フランジがスリットに正しくセットされていない場合に設定量が注入されない可能性、押し子とスライダーが密着していない場合の注入開始不良や急速注入の危険性、ホルダーのセット忘れによる残量確認困難などを注意喚起しています。PMDA医療安全情報:シリンジポンプセット時の注意について
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11124500/0000173901.pdf
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 患者確認 | 患者識別子を施設基準に沿って確認する | 同姓同名や病床移動にも注意する |
| 薬剤確認 | 薬剤名、規格、濃度、総液量、投与目的を指示と照合する | 調製済みシリンジのラベルも確認する |
| シリンジ選択 | 使用機種が指定する容量・種類を使用する | 機種の自動認識結果も確認する |
| 本体への装着 | フランジをスリットに入れ、ホルダーを固定する | 目盛が読める向きで装着する |
| 駆動部の確認 | 押し子とスライダーを隙間なく密着させる | 開始前に視認・触診で確認する |
| ライン確認 | 接続先、クレンメ、三方活栓、屈曲、閉塞の有無を確認する | 投与ルートを患者側まで追跡する |
ラインのプライミングは、薬剤の種類、投与経路、施設手順に従って実施します。患者接続後に不用意な早送り操作を行えば、回路内に残っていた薬液が一時的に多く投与されるおそれがあります。とくに高力価薬剤や作用発現が速い薬剤では、接続前のプライミングの完了確認、三方活栓の方向、クレンメの開放状態、ルートの接続先を複数の視点で確認してください。
シリンジポンプの設定は、単位を含めて確認することが原則です。機種によっては、mL/hを直接入力する方式のほか、薬剤量、溶液量、患者体重、投与量を入力して流量を自動換算する方式があります。自動換算機能は便利ですが、誤った薬剤量や溶液量、体重、単位を入力すると、誤った流量がもっともらしく表示されるため、画面表示だけを信頼することは危険です。
設定時は、医師指示の投与量と単位を確認し、ラベルに記載された実際の薬剤量・溶液量と入力値を照合します。そのうえで、表示された換算流量が臨床的に妥当かを確認します。たとえば薬剤量を本来の10分の1で入力すると、実際の濃度が低いものとして計算され、必要な投与量を満たすために流量が大きく換算される可能性があります。日本医療機能評価機構は、薬剤量や溶液量の入力誤りにより、予定の10倍または5倍の流量となった事例を示し、開始直前に設定内容と自動換算流量を確認するよう注意喚起しています。医療安全情報No.119:シリンジポンプの薬剤量や溶液量の設定間違い
参考)https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_119.pdf
開始ボタンの押し忘れも、安全上見逃せない問題です。セットと設定が正しくても、投与が開始されていなければ必要な治療が中断されます。反対に、開始後に画面だけを見て安心せず、動作表示、残量推移、滴下・注入状況、患者状態を観察します。PMDAは、流量の小数点や桁数の入力間違い、開始ボタンの押し忘れについても注意を促し、スタート前に設定流量を再確認するよう示しています。
投与中は、機器の画面と患者を切り離して考えないことが大切です。看護師は、設定流量、積算量、予定量、残量、電源状態、バッテリー表示、アラームの有無を定期的に確認し、薬剤の作用・副作用と患者のバイタルサイン、意識状態、疼痛、呼吸状態、循環動態、鎮静度などを評価します。薬剤によって観察項目と観察間隔は異なるため、薬剤ごとの添付文書、院内基準、治療計画に従ってください。
閉塞、気泡、残量、ドア開放、バッテリー低下などのアラームが鳴った場合は、音を止めることだけを目的に操作してはいけません。まず患者の状態を確認し、投与中断または異常投与が患者に及ぼす影響を評価します。次に、どのポンプのどのアラームかを特定し、薬剤名、ルート、接続部、三方活栓の向き、屈曲・圧迫、穿刺部、シリンジ装着状態、設定値を系統的に確認します。閉塞アラームであれば、ラインの屈曲やクレンメ閉鎖、接続不良、患者側カテーテルの問題などを確認し、自己判断で解除・早送りを行わず、施設手順と必要時の医師報告に従います。
また、シリンジポンプの高さやライン内の状態によっては、意図しない流量変動やサイフォニングが問題となることがあります。患者移送、体位変換、ベッド高の変更、ポンプスタンドの移動後には、患者との位置関係、シリンジの固定状態、ルートのたるみ・牽引・屈曲、接続部を再確認してください。残量のみを見て「投与が続いている」と判断せず、患者状態、表示、残量変化、投与ルートを組み合わせて評価する姿勢が必要です。
注射器交換は、薬剤投与が中断しやすく、取り違えも生じやすい局面です。とくに複数台のシリンジポンプを使用している場合、アラーム音だけで対象ポンプを決めつけると、別の薬剤を交換する危険があります。交換前には、どのポンプの残量アラームかを画面・表示灯・薬剤名ラベルから特定し、患者に投与中の薬剤と対象ルートを確認します。高リスク薬では、残量アラームを待たず、次のシリンジを早めに準備し、交換による中断時間を最小限にする運用が重要です。
日本医療機能評価機構は、複数の薬剤をシリンジポンプで投与していた際に注射器を交換し間違え、別薬剤を接続して投与した事例を報告しています。2020年1月1日から2024年6月30日までに7件が報告され、空になった注射器のラベル、シリンジポンプ本体に貼付したラベル、交換する注射器のラベルの薬剤名を照合する対策が示されています。バーコード認証を利用している場合も、それだけで交換対象のポンプや薬剤が正しいとは限らないため、ポンプ本体と空シリンジ、交換シリンジの照合を省略しないことが重要です。医療安全情報No.213:シリンジポンプの注射器の交換間違い
参考)https://jcqhc.or.jp/wp-content/uploads/2024/08/anzen_20240815.pdf
交換時には、まず対象ポンプを特定し、空シリンジの薬剤名とポンプの薬剤名ラベルを確認します。次に、新しいシリンジの患者名、薬剤名、濃度、総量、調製情報を確認し、空シリンジおよび本体表示と照合します。その後、機種の手順に従って一時停止、シリンジ交換、押し子とスライダーの密着、ホルダー固定、投与設定、再開操作を行い、再開後に流量、動作表示、接続先、患者状態を確認します。変更時刻、投与量、残量、患者反応、異常の有無を記録し、交代時にも現在の投与内容と交換予定を確実に申し送ることが、安全な継続投与につながります。