角膜ジストロフィの種類と鑑別・治療の要点

角膜ジストロフィは病変が生じる角膜層、沈着物、遺伝形式、進行様式により多様に分類されます。代表疾患の特徴、診断時の観察点、鑑別診断、治療選択と再発への対応を整理し、日常診療に役立ててみてはいかがでしょうか?

角膜ジストロフィ 種類の基礎知識と核心ガイド

層別に理解する角膜ジストロフィ分類
病変の層で大別する

上皮・ボーマン層、実質、デスメ膜・内皮の主病変部位を捉えると、疾患群の整理と鑑別がしやすくなります。

形態と遺伝情報を統合する

細隙灯所見、左右対称性、家族歴、発症年齢に加え、必要時の遺伝学的検査を組み合わせて診断精度を高めます。

治療後の再発も見据える

経過観察、PTK、各種角膜移植は病変深度と視機能障害で選び、遺伝性疾患では再発リスクも説明します。


角膜ジストロフィとは何か:分類を理解する前提



角膜ジストロフィは、主として遺伝的背景をもち、両眼性かつ概ね左右対称に角膜の混濁、沈着、変性、あるいは内皮機能障害を生じる疾患群である。疾患ごとに好発する角膜層、沈着物の性状、発症年齢、進行速度、症状、遺伝形式が異なるため、「角膜が混濁している」という所見だけで単一疾患として扱うことはできない。臨床では、遺伝性であること、非炎症性の経過をとりやすいこと、両眼に類似した所見が出現しやすいことが重要な手掛かりとなる。
ただし、角膜ジストロフィという名称は、感染、外傷、コンタクトレンズ関連障害、眼表面疾患、代謝異常、加齢性変化、薬剤、術後変化などによる二次性角膜混濁を除外したうえで用いる必要がある。例えば、角膜実質内にアミロイド様の沈着を認めても、慢性炎症、外傷、長期にわたる角膜疾患に伴う二次性アミロイドーシスであれば、遺伝性の格子状角膜ジストロフィや膠様滴状角膜ジストロフィとは異なる病態として評価する。
国際的にはInternational Committee for Classification of Corneal Dystrophies(IC3D)による分類が広く参照される。2024年に公表されたIC3D第3版では、各疾患について臨床像、病理像、遺伝子、遺伝形式、エビデンスの確実性を含めた標準化されたテンプレートが提示され、22の角膜ジストロフィが整理されている。従来の単純な形態分類だけでなく、分子遺伝学的知見を統合して診断名を扱うことが重要である。
IC3D Classification of Corneal Dystrophies—Edition 3


病変部位でみる主な種類と臨床的特徴

実地診療では、角膜のどの層に主病変があるかを軸として、上皮・ボーマン層ジストロフィ、角膜実質ジストロフィ、デスメ膜・角膜内皮ジストロフィに大別すると理解しやすい。前眼部OCT、細隙灯顕微鏡、フルオレセイン染色、角膜形状解析、角膜内皮細胞検査、必要に応じた共焦点顕微鏡を組み合わせ、病変深度と分布を確認する。

病変群 代表的な種類 主な臨床所見・症状
上皮・ボーマン層 Meesmann角膜上皮ジストロフィ、Reis-Bücklers角膜ジストロフィ、Thiel-Behnke角膜ジストロフィ、膠様滴状角膜ジストロフィ 上皮内嚢胞、表層の網状・蜂巣状混濁、反復性角膜びらん、疼痛、羞明、異物感、表層性混濁による視力低下
角膜実質 顆粒状角膜ジストロフィ、格子状角膜ジストロフィ、斑状角膜ジストロフィ、シュナイダー角膜ジストロフィ 白色顆粒状、格子状、びまん性の実質混濁、グレア、視力低下、病型によって再発性びらんや角膜感覚低下
デスメ膜・内皮 Fuchs角膜内皮ジストロフィ、後部多形性角膜ジストロフィ、先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ guttae、デスメ膜異常、内皮細胞機能低下、角膜浮腫、朝方の霧視、上皮浮腫、水疱性角膜症

上皮・ボーマン層を主座とする病型では、視力低下だけでなく、上皮接着異常に関連する反復性角膜びらんが臨床的な問題となりやすい。患者は起床時の強い眼痛、流涙、羞明、異物感として訴えることがある。Reis-Bücklers角膜ジストロフィやThiel-Behnke角膜ジストロフィでは、表層の地図状、蜂巣状、網状などの混濁パターンを、上皮基底膜ジストロフィ、外傷後変化、慢性角膜上皮障害と鑑別する。
角膜実質ジストロフィでは、混濁の形態、深度、中心性、辺縁優位性、透明域の残存、年齢に伴う変化を観察する。顆粒状角膜ジストロフィは白色で境界比較的明瞭なパンくず状・輪状の実質混濁、格子状角膜ジストロフィは分枝する線状ないし格子状混濁、斑状角膜ジストロフィは灰白色のびまん性混濁と角膜菲薄化を示しうる。病型の確定は、典型像だけでなく家族歴、遺伝形式、遺伝学的背景を統合して行う。


代表疾患を診療でどう見分けるか

顆粒状角膜ジストロフィは、TGFBI関連角膜ジストロフィの代表例であり、角膜実質に白色顆粒状の混濁を認める。病変と病変の間に比較的透明な実質が残ることが多く、進行により中心部に混濁が集積して視機能を障害する。角膜屈折矯正手術や外傷などを契機に混濁が顕在化・増悪することがあり、既往歴の確認が重要である。角膜移植後にも再発しうるため、術前説明では長期経過を含めた共有意思決定が必要となる。
格子状角膜ジストロフィは、角膜実質のアミロイド沈着を背景とする疾患群で、細隙灯では分枝する線状、格子状、屈曲した糸状の混濁が手掛かりとなる。古典型ではTGFBIの特定変異との関連が知られている一方、非古典型を含む格子状角膜ジストロフィの表現型は多彩である。角膜混濁のほか、反復性角膜びらん、眼痛、視力低下を伴うことがあり、単に実質混濁の量だけでは症状を評価しきれない。
斑状角膜ジストロフィは、実質全層に及びうるびまん性の灰白色混濁と、境界がやや不明瞭な斑状混濁を特徴とする。角膜が菲薄化することがあり、若年から視力低下を生じうる。常染色体潜性遺伝形式をとる代表疾患の一つとして、近親婚を含む家族背景、同胞内発症の有無を確認する意義がある。顆粒状や格子状のように明瞭な特徴的沈着が前景に立たない例では、前眼部OCTや角膜厚測定を併用し、病変の広がりと菲薄化を評価する。
膠様滴状角膜ジストロフィは、本邦で特に診療上重要な上皮下アミロイド沈着性疾患である。両眼の中央部から瞼裂部を中心に、灰白色で隆起性の上皮下沈着物が集簇し、桑の実状と表現される所見が典型である。視力低下、羞明、異物感、流涙を伴い、角膜周辺部からの表層血管侵入や、上皮障害が明らかでなくてもフルオレセイン点眼数分後に染色されるdelayed stainingが診断の補助所見となる。TACSTD2遺伝子の両アレル性機能喪失変異と関連する常染色体潜性遺伝疾患であり、二次性アミロイドーシスやclimatic droplet keratopathyを除外する。
厚生労働省:膠様滴状角膜ジストロフィーの診断基準


内皮ジストロフィと二次性角膜混濁の鑑別

Fuchs角膜内皮ジストロフィは、デスメ膜のguttaeと進行性の角膜内皮機能低下を特徴とする。角膜内皮ポンプ機能が低下すると、実質浮腫、上皮浮腫、角膜厚増加を生じ、患者は朝方に強い霧視を訴えることがある。進行例では日中も視力低下やグレアが持続し、上皮水疱の破綻により疼痛を来す。前眼部の混濁を「実質への沈着物」と解釈するのではなく、浮腫に起因する後方から前方への光学的変化として認識することが鑑別の基本となる。
Fuchs角膜内皮ジストロフィは遺伝的要素を持つ疾患であるが、発症年齢、病勢、家族歴、遺伝背景は一様ではない。白内障手術を予定する場合には、術前のguttaeの程度、中心角膜厚、内皮細胞の評価可能性、浮腫の有無、反対眼の状態を確認し、白内障単独手術か、内皮角膜移植を組み合わせるかを検討する。Specular microscopyは内皮細胞が保たれている段階では有用だが、浮腫やguttaeが高度な場合には撮影・解析が困難となるため、単一の検査値に依存しない評価が求められる。

  • 左右差が強い、急速に進行する、炎症所見がある場合は、典型的な遺伝性角膜ジストロフィ以外の病態を優先して検討する
  • 上皮欠損、角膜知覚低下、感染徴候、強い充血を伴う場合は、神経麻痺性角膜症、感染性角膜炎、免疫関連角膜疾患などを鑑別する
  • コンタクトレンズ装用歴、眼外傷、角膜手術歴、長期点眼歴、職業性紫外線曝露などを確認し、二次性混濁や変性疾患を除外する
  • 全身性アミロイドーシスや代謝性疾患が疑われる所見では、眼所見だけで病型を固定せず、全身評価や関連診療科との連携を検討する

後部多形性角膜ジストロフィでは、後部角膜の小水疱状・帯状・地図状病変、デスメ膜異常、内皮細胞形態異常がみられ、虹彩癒着、瞳孔偏位、緑内障を伴う例がある。先天遺伝性角膜内皮ジストロフィでは出生時または乳幼児期から両眼性の角膜混濁を呈しうるため、先天緑内障、前眼部形成異常、先天感染症、代謝性疾患といった小児角膜混濁の鑑別を並行して進める必要がある。


検査、遺伝学的診断、治療選択の実践ポイント

診断の第一歩は、細隙灯顕微鏡で病変を表層、実質、後部実質、デスメ膜、内皮に分けて観察することである。沈着物の色調、境界、隆起、形状、分枝性、網状構造、病変間の透明域、中心優位か周辺優位か、角膜血管侵入、上皮びらん、浮腫の有無を系統的に記載する。両眼の写真を保存して経時比較できるようにすると、進行の判定、紹介時の情報共有、治療適応の検討に有用である。
前眼部OCTは、混濁が角膜表層に限局するのか、実質深層まで及ぶのか、デスメ膜・内皮側の浮腫性変化が主体なのかを把握する補助となる。角膜トポグラフィ・トモグラフィでは不正乱視や角膜形状変化を確認し、角膜厚測定では浮腫または菲薄化を数値化する。角膜内皮細胞検査は内皮病変の評価に役立つが、前述のとおり高度なguttaeや角膜浮腫では測定不能・不正確となりうる。必要に応じて、生体共焦点顕微鏡、病理組織学的検査、遺伝学的検査を追加する。
遺伝学的検査は、臨床像が非典型的な症例、家族内集積例、発症年齢が若い症例、将来的な家族への説明が必要な症例、治療後再発のリスク評価を要する症例で特に有用である。ただし、検査前には、検査の目的、得られる結果の範囲、病的意義不明バリアントの可能性、血縁者への影響、個人情報保護について説明し、適切な同意を得る。遺伝カウンセリングを含む体制がある施設との連携を考慮する。
治療は診断名だけで一律に決めるのではなく、視力、羞明、疼痛、反復性角膜びらん、病変深度、不正乱視、角膜浮腫、患者の年齢と生活上の視覚要求を踏まえて個別化する。軽症で視機能障害が乏しい場合は、定期的な観察、屈折矯正、眼表面管理を基本とする。びらんが問題となる表層病変では、潤滑点眼・眼軟膏、治療用コンタクトレンズ、上皮治療を検討し、病変が表層に限局する例ではPTKが選択肢となる。
実質深部まで混濁が及ぶ場合には、深層角膜移植または全層角膜移植を検討する。内皮障害が主病変であるFuchs角膜内皮ジストロフィなどでは、DMEKやDSAEKなどの内皮角膜移植が中心的な選択肢となる。いずれの術式でも、基礎に遺伝的・内因性の病態が存在するため、移植片や切除後の角膜に病変が再発する可能性を治療前から説明することが重要である。病変の再発時期や再発様式は疾患ごとに異なり、視機能への影響を定期的に確認しながら、再治療の時期を判断する。
角膜ジストロフィの「種類」を正確に理解することは、名称の暗記にとどまらない。病変層、細隙灯形態、症状、家族歴、遺伝形式、補助検査、治療後の再発傾向を一つの臨床像として統合することで、患者ごとに適切な経過観察、紹介、遺伝学的評価、治療介入を選択しやすくなる。特に、若年発症、両眼対称性、特徴的な沈着形態、家族内集積を認める場合は、角膜ジストロフィを積極的に疑い、病型に応じた専門的評価へつなげることが望ましい。


IC3D第3版では、角膜ジストロフィを22疾患の標準テンプレートで整理し、臨床像・組織像・遺伝子情報を統合した分類を提示している。


参考)https://journals.lww.com/corneajrnl/fulltext/2024/04000/ic3d_classification_of_corneal_dystrophies_edition.12.aspx
膠様滴状角膜ジストロフィでは、両眼中央部から瞼裂部の桑の実状上皮下アミロイド沈着、delayed staining、表層血管侵入が診断上の重要所見であり、TACSTD2異常との関連が示されている。


参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000522592.docx

【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠