性器クラミジア感染症は、主にクラミジア・トラコマチスによる性感染症です。腟性交だけでなく、感染部位との接触を伴う性行為を介して伝播し、女性では主として子宮頸管に感染します。子宮頸管炎として始まった感染が適切に診断・治療されない場合、子宮内膜、卵管、骨盤内へ上行し、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患へ進展する可能性があります。
臨床上の大きな特徴は、感染しても症状をほとんど自覚しない女性が少なくないことです。そのため、「かゆみがない」「痛みがない」「おりものに目立った変化がない」といった理由だけで感染を除外することはできません。厚生労働省も、女性では症状をほとんど自覚しないことが多いと案内しており、進行時には不正出血や性交時痛、不妊、早期流産に関係することがあるとしています。患者への説明では、無症状であっても検査・治療の対象になり得ることを、責めることなく明確に伝える姿勢が重要です。
参考)性器クラミジア感染症|厚生労働省
医療従事者は、症状の有無だけでなく、性交パートナーの診断歴、最近の新規パートナー、コンドームを使用しない性交、他の性感染症の既往、妊娠の可能性、下腹部痛の有無などを総合して評価します。特に、子宮頸管炎が疑われる患者では、クラミジアとともに淋菌感染症などの併存も視野に入れた検査計画が必要です。
女性の性器クラミジア感染症では、症状が出る場合でも軽微かつ非特異的なことがあります。代表的には、おりものの増加、色調・性状の変化、不正出血、性交後出血、性交時痛、排尿時の違和感や痛み、下腹部の違和感などが挙げられます。ただし、これらは細菌性腟症、カンジダ症、トリコモナス症、淋菌感染症、子宮頸部病変、尿路感染症などでもみられるため、問診と診察所見だけで原因を確定することはできません。
子宮頸管炎としては、粘液膿性の帯下、子宮頸部の発赤、頸部接触時の出血、頸管分泌物の増加などが手がかりになります。一方で、内診で明らかな異常を認めない感染例もあり、臨床所見の乏しさは検査不要の根拠にはなりません。性交時痛や不正出血を「一時的なホルモン変動」と自己判断して受診が遅れる例もあるため、症状の持続・反復、性交との時間的関連、妊娠希望の有無を丁寧に確認します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 無症状 | 自覚症状がなくても子宮頸管に感染している場合がある | 症状がないことは感染否定の根拠にならない |
| 帯下の変化 | おりものの量の増加、粘液性または膿性の分泌物 | 腟炎・頸管炎の鑑別と検査が必要 |
| 不正出血 | 月経以外の出血、性交後出血、接触出血 | 頸管炎のほか婦人科疾患も評価する |
| 性交時痛 | 性交時の痛み、性交後の痛みや出血 | 進行例では骨盤内炎症性疾患も考慮する |
| 下腹部痛 | 下腹部の持続痛、圧痛、発熱を伴う骨盤痛 | 緊急性を含め骨盤内炎症性疾患を評価する |
| 排尿症状 | 排尿時痛、頻尿、尿道違和感 | 尿路感染症や尿道炎との鑑別が必要 |
国立健康危機管理研究機構は、女性では子宮頸管炎や骨盤内炎症性疾患を起こし得る一方、自覚症状に乏しいこと、不妊や流早産の原因となり得ることを示しています。潜伏期間は一般に1~3週間程度とされますが、女性では無症候のまま経過し得るため、個々の患者で感染時期を症状から正確に推定することは困難です。
参考)性器クラミジア感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提…
国立健康危機管理研究機構:性器クラミジア感染症
女性のクラミジア感染症で最も注意すべき点は、子宮頸管から上部生殖器へ感染が波及する可能性です。上行感染により子宮内膜炎、卵管炎、卵巣周囲炎などを含む骨盤内炎症性疾患を発症すると、下腹部痛、性交痛、発熱、悪心、頸部移動痛、子宮または付属器の圧痛などがみられることがあります。しかし、骨盤内炎症性疾患も典型所見がそろわない軽症例があり、症状の強さのみで重症度を判断することは適切ではありません。
卵管の炎症や癒着は、卵管性不妊、子宮外妊娠、慢性骨盤痛につながる可能性があります。また、右上腹部痛を伴う場合には、肝周囲炎であるFitz-Hugh-Curtis症候群も鑑別に含めます。特に若年女性で、性感染症のリスク、下腹部症状、右上腹部痛が組み合わさる場合は、消化器疾患のみで説明しようとせず、婦人科・性感染症の視点を保つことが重要です。
このような所見がある場合は、単純な頸管炎として経過観察するのではなく、骨盤内炎症性疾患、妊娠関連疾患、急性腹症を踏まえた速やかな評価が必要です。厚生労働省も、女性では感染が子宮内膜や卵管に波及し、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患、肝周囲炎を起こし得ると示しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-31.html
診断には核酸増幅検査を用いることが一般的で、採取検体は医療機関の検査法や患者の状況に応じて選択します。女性では腟ぬぐい液、子宮頸管ぬぐい液、初尿などが用いられます。なお、咽頭や直腸への曝露が疑われる場合は、性行動歴に基づいて性器以外の部位についても評価を検討します。患者が申告しやすい環境を作り、性行為の内容を中立的かつ非断定的に確認することが、適切な検査部位の選定につながります。
治療薬の選択は、妊娠の有無、薬剤アレルギー、服薬継続の可能性、併存感染、地域や施設で参照する診療指針などを踏まえて医師が決定します。自己判断で市販薬や残薬を使用すると、症状が一時的に変化しても十分な治療に至らず、診断を遅らせるおそれがあります。抗菌薬の投与が開始された場合も、症状の改善だけで治療完了と判断せず、処方された薬剤を指示どおり服用することを説明します。
海外のCDC STI治療ガイドラインでは、クラミジア感染が確認された人には速やかな治療を行うこと、治療遅延は一部の女性で骨盤内炎症性疾患などの合併症と関連し得ることが示されています。また、治療後は、単回投与であれば7日間、7日間レジメンであれば服薬完了まで性交を控え、症状がある場合は症状が消失するまで性交を避けるよう案内されています。日本での具体的な薬剤選択・投与量・検査時期は、患者背景と国内の診療環境を踏まえて担当医が判断する必要があります。
参考)Chlamydial Infections - STI Tr…
CDC:Chlamydial Infections STI Treatment Guidelines
再感染は臨床上の重要な課題です。治療後も症状がないからといって、パートナーが未治療のまま性交を再開すれば再感染する可能性があります。治療後の再検査については、妊娠の有無、症状、治療状況、再曝露リスク、地域・施設の運用を考慮して計画し、特に再感染リスクが高い患者ではフォローアップの必要性を具体的に説明します。
クラミジア感染症の診療では、本人の治療だけでなく、性交パートナーへの対応が再感染予防と感染拡大防止に直結します。診断された患者には、直近の性交パートナーが検査・診察・必要な治療につながるよう説明します。相手に伝えにくい患者もいるため、「責任追及のためではなく、無症状の感染を見つけて将来の健康被害を防ぐため」と目的を明確にすることが有用です。
説明時には、クラミジア感染症は症状だけでは判断できず、感染経路や感染時期を検査結果だけで一意に特定できないことも伝えます。不必要な断定は患者間の対立や治療中断につながり得るため、「いつ、誰から感染したか」を医学的に確定できない場合があることを、慎重な言葉で共有します。そのうえで、治療完了までの性交回避、コンドームの適切な使用、パートナーの受診、必要に応じた他の性感染症検査を案内します。
妊娠中の患者、妊娠を希望している患者、妊娠の可能性がある患者では、治療薬の選択や治療後の確認方法が一般の非妊娠患者と異なる可能性があるため、必ず妊娠状況を確認します。妊婦の感染は産道感染を介して新生児の結膜炎や肺炎につながることがあるため、早期の評価と適切な管理が重要です。
女性のクラミジア感染症は、無症状であっても将来の骨盤内炎症性疾患、不妊、子宮外妊娠などに関係し得る感染症です。おりものの変化、不正出血、性交痛、下腹部痛などを認める場合はもちろん、パートナーの感染判明や曝露リスクがある場合にも、症状の軽さで判断せず、検査と適切な治療・パートナー対応につなげることが診療の要点となります。