医療用の創傷被覆材は、皮膚欠損部を物理的に覆うだけの材料ではありません。創面を外部刺激や摩擦、汚染から保護しつつ、創傷治癒に適した湿潤環境を維持し、滲出液を吸収・保持・移行させ、必要に応じて疼痛や処置時の皮膚損傷を軽減するために用いられます。医療現場では「ドレッシング材」と総称されることもありますが、製品ごとに吸収能、粘着性、透湿性、柔軟性、視認性、交換頻度、適応部位が異なるため、一律の選択は適切ではありません。
厚生労働省の創傷被覆・保護材に関する承認基準では、皮下脂肪組織までの創傷(Ⅲ度熱傷を除く)に対し、創の保護、湿潤環境の維持、治癒の促進、疼痛の軽減を使用目的としています。ただし、医療用創傷被覆材は局所処置を補完する手段であり、原因治療そのものに置き換わるものではありません。褥瘡であれば除圧・体位変換・栄養評価、糖尿病関連足病変であれば血糖管理・末梢循環評価・感染制御、静脈性下腿潰瘍であれば病態確認と圧迫療法の適否判断を並行して行う必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2861&dataType=1&pageNo=1dataType=1href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2861&dataType=1&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2861&dataType=1&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・創傷被覆・保護材承認基準の制定について(◆平成17年04月…
選択の出発点は、「どの製品が有名か」ではなく、「現在の創に何が必要か」です。例えば、浅く滲出液が少ない創面で保護と湿潤維持を主目的とするのか、滲出液が多く周囲皮膚の浸軟を防ぐ必要があるのか、ポケットや腔洞への充填が必要なのか、感染が疑われて観察頻度を上げるべきなのかによって、第一選択となる被覆材は変わります。
厚生労働省「創傷被覆・保護材承認基準の制定について」
医療用創傷被覆材を開始・変更する前には、創傷そのものだけでなく、患者背景と治癒を阻害する因子を系統的に評価します。褥瘡ではDESIGN-Rなどの評価枠組みを活用し、深さ、滲出液、大きさ、炎症・感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットを経時的に記録します。急性外傷、術後創、熱傷、皮膚潰瘍、足病変でも、深達度、汚染、組織欠損、虚血、疼痛、滲出液、周囲皮膚の状態を確認し、創傷ごとの病態を見極めることが必要です。
とくに、滲出液の量だけでなく性状を観察します。漿液性、血性、膿性、粘稠性、悪臭の有無、急な増量は、創傷環境の変化や感染、出血、固定不良を示唆する場合があります。また、創縁の白色化、ふやけ、発赤、びらんは、過剰な湿潤、漏れ、粘着剤による皮膚障害、摩擦・ずれなどを疑う所見です。被覆材の交換時は、製品を外した後の創面だけでなく、剥離した被覆材の裏面に残る滲出液量や性状、ずれ、漏れ、臭気も評価材料になります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 創傷の深さ | 表皮・真皮レベルか、皮下組織以深か、腱・骨の露出があるかを確認する | 深い創やポケットでは充填方法と死腔管理を検討する |
| 滲出液 | なし、少量、中等量、多量とし、粘稠性、色、臭気、急な変化も記録する | 多量なら高吸収性や漏れ対策、少量なら乾燥回避を考える |
| 創床の状態 | 壊死、スラフ、肉芽、上皮化の割合と変化を評価する | デブリードマンや治療方針の再検討が必要な場合がある |
| 感染・炎症徴候 | 発赤、熱感、腫脹、疼痛増悪、膿性排液、悪臭、全身症状を確認する | 感染疑いでは被覆による閉鎖を漫然と継続しない |
| 周囲皮膚 | 浸軟、びらん、乾燥、脆弱化、テープ損傷、真菌感染の有無を確認する | 固定法、サイズ、交換間隔、皮膚保護剤も再評価する |
| 全身・局所因子 | 除圧、栄養、血流、浮腫、血糖、服薬、活動性、セルフケア能力を把握する | 局所処置と原因への介入を同時に進める |
急性創傷の診療では、皮膚欠損創において湿潤環境の維持と、滲出液量に応じた創傷被覆材の選択が有用とされています。一方、感染が危惧される場合は慎重な適応が必要です。発熱、急速に拡大する発赤、疼痛の増悪、膿性排液、壊死進行、全身状態の変化がある場合には、単に被覆材を変更するだけでなく、速やかに評価・診断・治療計画を見直します。
参考)https://jsprs.or.jp/docs/guideline/keiseigeka2.pdf
日本形成外科学会「急性創傷診療ガイドライン」
創傷被覆材は製品名ではなく、機能特性と創傷状態の組み合わせで理解すると選択しやすくなります。ポリウレタンフィルムは薄く透明で、浅い創の保護や創部観察をしやすい一方、多量の滲出液を吸収する用途には向きません。ハイドロコロイドは創面を閉鎖的に保護し、比較的少量から中等量の滲出液に対応しながら湿潤環境を維持する選択肢です。貼付後にゲル化し、外観や臭気が感染と紛らわしいこともあるため、創部所見と全身状態を合わせて判断します。
ポリウレタンフォームは吸収性とクッション性を持ち、中等量から多量の滲出液がある創傷で検討されます。仙骨部や踵部など、摩擦・ずれや圧が関与しやすい部位では、形状適合性、ずれにくさ、周囲皮膚への負担も重要です。アルギン酸塩やハイドロファイバー系の被覆材は、滲出液を吸収してゲル化し、腔洞やポケットを伴う創傷への充填に用いられることがあります。ただし、乾燥した創に使用すると固着や除去時の損傷につながり得るため、創面の湿潤状態を確認します。
褥瘡診療ガイドラインでは、褥瘡の状態に応じてポリウレタンフォームやソフトシリコンを用いたドレッシング材などの使用が推奨されています。ただし、材質名だけで適応が決まるわけではありません。同じフォーム材でも、粘着縁の有無、吸収容量、透湿性、切断可否、部位特異的形状、抗菌成分の有無は異なります。採用時には添付文書、院内採用品目の仕様、使用上の注意を確認し、患者の創傷経過に基づいて選択します。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/2bedsore_guideline.pdf
交換頻度は「毎日交換すべき」「何日間も貼付できる」という固定観念では決めません。滲出液量、漏れ、ずれ、剥離、臭気、創傷の深さ、感染リスク、使用製品の添付文書、患者の発汗や失禁、固定部位を総合して決定します。開始直後や状態変化が大きい時期は観察密度を高め、製品が滲出液を保持できているか、周囲皮膚に浸軟がないか、創傷が悪化していないかを確認します。漏れが生じてからではなく、漏れが予測される前に交換するという視点が重要です。
剥離時の医療関連機器圧迫創傷や粘着剤関連皮膚損傷を防ぐためには、被覆材を皮膚から垂直方向に引きはがさず、皮膚を支持しながら低い角度でゆっくりと剥離します。脆弱皮膚、浮腫、低栄養、長期ステロイド使用、高齢、失禁関連皮膚炎がある患者では、粘着面の範囲、固定テープの選択、皮膚保護剤の使用、交換回数の最適化を検討します。創周囲の発赤をすべて感染とみなすのではなく、粘着剤刺激、浸軟、摩擦、圧迫、接触皮膚炎も鑑別に入れます。
感染を疑う場合は、発赤の拡大、熱感、腫脹、疼痛、膿性滲出液、悪臭、肉芽の脆弱化、出血しやすさ、治癒停滞、発熱などを個別に評価します。深部感染、骨髄炎、壊死性軟部組織感染、末梢動脈疾患による虚血が疑われる場合は緊急性を判断し、必要な検査や専門科との連携を遅らせないことが重要です。抗菌性をうたう被覆材も、感染の診断や全身抗菌薬、外科的処置、デブリードマンの必要性を代替するものではありません。
PMDA掲載資料:創傷被覆材の使用方法・使用上の注意の例
保険診療で使用する皮膚欠損用創傷被覆材では、製品の区分と対象創傷、深達度、使用目的、算定要件を確認する必要があります。社会保険診療報酬支払基金の審査情報では、皮下組織に至る創傷用の被覆材について、挫創、挫滅創、褥瘡、皮膚潰瘍などでの算定が原則として認められる例が示されています。他方で、創傷の深さや病態が対象に合わない場合、単なる予防目的での使用、必要性を裏付ける記録が乏しい場合などは、算定上の問題となり得ます。
参考)https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/sinsa_jirei/kikin_shinsa_atukai/shinsa_atukai_i/shochi_1.files/shochi_19.pdf
実務では、創傷の部位、サイズ、深さ、滲出液、壊死・感染所見、周囲皮膚、選択した被覆材の種類・サイズ・枚数・交換日、選択理由、次回評価日を診療録や看護記録に残すことが重要です。「フォーム材を使用」だけではなく、「仙骨部の中等量滲出液を伴う褥瘡に対し、滲出液吸収とずれ・摩擦への配慮を目的として使用。周囲皮膚に軽度浸軟があるため次回交換時に拡大の有無を評価する」といった形で、状態と目的を結び付けた記録が望まれます。
また、被覆材の適正使用は、医師、看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士・作業療法士、訪問看護師、介護職などの連携で質が高まります。例えば、局所の滲出液管理がうまくいかないとき、被覆材の変更だけを繰り返すのではなく、体圧分散寝具、ポジショニング、失禁ケア、栄養摂取、浮腫、活動量、装具や医療機器の接触部を見直します。創傷被覆材 医療用という検索語で製品情報を収集する際にも、宣伝文句だけで判断せず、承認・認証情報、添付文書、院内プロトコル、ガイドラインを照合し、個別患者への適用可能性を評価する姿勢が欠かせません。
社会保険診療報酬支払基金「皮膚欠損用創傷被覆材の取扱い」