
平均値と中央値は、どちらもデータの「中心」を表す代表値ですが、計算方法と意味合いが根本的に異なります。
平均値(mean)は、すべてのデータを足し合わせてデータの個数で割った値です。例えば、5人の患者の入院日数が「3日、5日、7日、9日、11日」の場合、平均値は(3+5+7+9+11)÷5=7日となります。
データの個数が偶数の場合は、中央の2つの値の平均を取ります。例えば「3日、5日、7日、9日」の4人の場合、中央の2つ(5と7)の平均である6日が中央値になります。
参考)中心的な傾向を捉える
平均値と中央値の最大の違いは、外れ値(極端な値)の影響を受けやすいかどうかです。
平均値はすべてのデータを足して計算するため、1つでも極端に大きい(または小さい)値があると、その影響を強く受けてしまいます。臨床研究の例で考えてみましょう。
参考)平均値と中央値の違い
10人の患者の血圧を測定したところ、9人が「120, 125, 130, 128, 122, 127, 124, 126, 123 mmHg」で、1人だけ測定ミスで「300 mmHg」という異常値が混入していたとします。
この場合、平均値は約140.5mmHgと計算され、実際のデータの中心(120-130mmHg程度)から大きくずれてしまいます。一方、中央値は125mmHgのまま変化せず、外れ値の影響を一切受けません。
参考)初めてのロバスト統計学① #機械学習 - Qiita
この性質を統計学では「ロバスト性(頑健性)」と呼び、中央値は外れ値に対してロバストであると言えます。医療データでは測定エラーや稀な症例が混入することがあるため、中央値のこの性質は非常に重要です。
参考)[Medical Data Science 100 : S1…
データの分布が左右対称の正規分布に近い場合、平均値と中央値はほぼ同じ値になります。この場合は、平均値を使用するのが一般的です。
参考)平均と中央値 mean and median - 一般社団法…
しかし、データの分布が偏っている(歪んでいる)場合、平均値と中央値は大きく異なります。典型的な例が年収データです。
参考)【サルでもわかる】平均年収と年収中央値の違い - 共働き生活…
医療現場でも同様の現象が起こります。例えば、入院日数のデータでは、ほとんどの患者が1-2週間で退院する一方、一部の重症患者が数ヶ月入院することがあります。このようなデータでは、中央値の方が「典型的な患者」の実態を反映します。
参考)【医療従事者向け】基礎統計量とは?平均・標準偏差・中央値・信…
使い分けの目安:
論文を読む際、平均値と中央値のどちらが使われているかで、データの性質を推測できます。
平均値±標準偏差と記載されている場合、データは正規分布に近いと仮定されています。一方、中央値(四分位範囲)と記載されている場合、データは歪んだ分布をしている可能性が高いです。
例えば、 cancer 患者の生存期間を報告する研究では、中央値生存期間(median survival time)が頻繁に使用されます。これは、一部の長期生存者が平均値を大きく引き上げるため、中央値の方が治療効果の「典型的な」指標として適切だからです。
日本理学療法学会のEBPT用語集では、「正規分布に従うデータであれば平均、順序尺度や正規分布に従わないデータであれば中央値を代表値として使用する」と明確に定義されています。
平均値と中央値の関係から、データ分布の「歪み」を定量的に評価できることをご存じでしょうか?
平均値 - 中央値 の差が大きいほど、データ分布は歪んでいます。この差を標準偏差で割った値は、ピアソンの歪度係数(Pearson's coefficient of skewness)の近似値として使用できます。
また、平均値が中央値より大きい場合、分布は右に歪んでいる(正の歪度)と判断できます。年収データが典型的な例で、右側(高所得側)に長い裾を引いています。逆に、平均値が中央値より小さい場合、分布は左に歪んでいます。
参考)年収の平均値と中央値、その差を分布データで図解【2026年】…
面白い事実として、平均値は「てこの原理における支点」として説明できます。データを数直線上に置いたとき、左右のバランスが取れる点が平均値です。一方、中央値は単に「順番が真ん中の点」に過ぎません。
この視点から考えると、平均値は「すべてのデータの重みを考慮した中心」、中央値は「数の多さだけを考慮した中心」と言えます。医療データのように、個々の患者の値に意味がある場合、どちらの「中心」を使うかで結論が変わる可能性があります。
実際の数値で、平均値と中央値の違いを具体例で確認しましょう。
例1:対称的なデータ分布
5人の患者の体重が「60kg, 65kg, 70kg, 75kg, 80kg」の場合:
この場合、平均値と中央値は一致します。データが左右対称だからです。
参考)平均値(mean)、中央値(median)、最頻値(mode…
例2:歪んだデータ分布(外れ値あり)
5人の患者の体重が「60kg, 65kg, 70kg, 75kg, 150kg」の場合:
平均値は150kgの外れ値に引っ張られて84kgになっていますが、中央値は70kgのままです。この場合、中央値の方が「典型的な患者の体重」を正しく表しています。
参考)中央値と平均値の違いとは?年収データの見方を簡単解説 - K…
例3:偶数データの中央値
4人の患者の入院日数が「3日, 5日, 7日, 9日」の場合:
偶数データの場合、中央の2つの値の平均を取るのがルールです。
論文やデータを読み解く際、平均値と中央値のどちらを使うべきかを判断するための実践的な方法を紹介します。
1. 平均値と中央値の差を確認する
2. ヒストグラムや箱ひげ図で分布を可視化する
分布が左右対称でなければ中央値、対称に近ければ平均値を選びます。視覚的に確認するのが最も確実です。
参考)なんでも平均でいいの?中央値と平均値をどう使い分けるか
3. シャピロ・ウィルク検定などの正規性検定を行う
4. 四分位範囲(IQR)を確認する
中央値±四分位範囲でデータが報告されている場合、すでにデータが歪んでいると判断されています。
参考)年収の中央値とは|平均との違いとパーセンタイル分布の読み方
臨床研究では、これらの方法を組み合わせて、適切な代表値を選択することが推奨されています。
以下に、参考となる権威ある日本語の資料へのリンクを示します。
総務省統計局の「中心的な傾向を捉える」ページでは、平均値・中央値・最頻値の定義と使い分けが、図解付きで分かりやすく解説されています。
日本理学療法学会のEBPT用語集「平均と中央値 mean and median」では、医療研究における使い分けの基準が、正規分布の可否という観点から明確に説明されています。
平均と中央値 mean and median - 一般社団法…
Decades Inc.の「平均値と中央値、臨床研究で本当に使うべきはどっち?」では、医療データ分析における外れ値の影響と、中央値のロバスト性について、臨床研究の具体例を交えて詳しく解説されています。
[Medical Data Science 100 : S1…
Curiosity Createsの「医療従事者向け 基礎統計量とは?」では、平均・標準偏差・中央値・信頼区間を、医療現場の例を交えてやさしく解説しており、統計が苦手な若手医療従事者にもおすすめです。