
グリチルリチンは、マメ科の多年草である甘草(カンゾウ、学名:Glycyrrhiza uralensis および Glycyrrhiza glabra)の根茎から抽出されるトリテルペノイド配糖体です。 甘草は「生薬の王様」とも称され、日本薬局方にも収載されている伝統的な薬用植物であり、その甘味成分であるグリチルリチン酸に多様な薬理作用が認められています。
参考)グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー) (medi…
参考)甘草 - 24. その他のトピック - MSDマニュアル プ…
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/dipotassium_glycyrrhizinate.html
漢方処方においては、甘草は「諸薬を調和する」とされ、約70%の漢方処方に配合されています。 単独での薬効だけでなく、他生薬との相乗効果や毒性緩和、甘味による矯味目的でも重要な役割を果たしています。
参考)https://www.inm.u-toyama.ac.jp/collabo/doc/2010fy_report_01.pdf
グリチルリチンによる最も重要な副作用は「偽アルドステロン症」です。 これは、過剰なグリチルリチン摂取により、腎臓でアルドステロン過剰状態と類似した電解質代謝異常(低カリウム血症、高血圧、浮腫、体重増加など)が生じる病態です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1dataType=1href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて(◆昭和…
作用機序は以下の2つの経路が関与しています。
参考)https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/record/39721/files/soma-1990-36.pdf
1. 11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ2型(11β-HSD2)阻害。
- 腎尿細管の11β-HSD2は、活性型コルチゾール(F)を不活性型コルチゾン(E)へ変換する酵素です。
2. ミネラルコルチコイド受容体への直接結合(副次的)。
- グリチルレチン酸自体も鉱質コルチコイド受容体に結合しますが、その結合力はアルドステロンの約1/10000と弱く、主要機序ではありません。
参考)偽アルドステロン症—甘草に注意 (medicina 58巻8…
医療従事者が知っておくべきポイントは以下の通りです。
参考)甘草(グリチルリチン)の1日量上限は?偽アルドステロン症の発…
漢方処方における「甘草」配合の意義に関する基礎的研究(富山大学)
グリチルリチン酸は、化粧品や医薬部外品において「肌荒れ防止の有効成分」として厚生労働省に承認されています。 主に水溶性を高めた「グリチルリチン酸ジカリウム(グリチルリチン酸2K)」の形で配合され、以下のような効果が期待されています。
参考)グリチルリチン酸 – 美容用語解説 &#8211…
参考)https://skincare-pharmacist.com/glycyrrhizic-acid
処方薬の塗り薬では1〜2%濃度で効果が保証されていますが、医薬部外品や一般化粧品ではそれより低濃度のため、予防効果のエビデンスは限定的です。 しかし、ステロイド様作用を持ちながら副作用リスクが極めて低く、毎日のスキンケアで安心して継続使用できる点が最大のメリットです。
意外な事実として、グリチルリチン酸は「ステロイドではないのにステロイド様作用を持つ」という点で、敏感肌やステロイド抵抗性の患者にも選択肢として注目されています。 また、4000年以上前からメソポタミアやエジプトで薬用として重宝された歴史を持ち、現代の化粧品科学においても「天然の抗炎症成分」として最もポピュラーな成分の一つです。
グリチルリチン酸ジカリウムの効果と副作用(株式会社パイオニア)
日本では、1970年代に人工甘味料の安全性への懸念から植物由来のグリチルリチンが代用甘味料として一般的に使用されるようになりましたが、薬理学的な副作用(アルドステロン様作用)が発見され、政府は1日の摂取量を200mgに制限しました。
厚生労働省の平成27年度甘味料マーケットバスケット調査では、食品添加物(グリチルリチン酸二ナトリウム及び甘草抽出物)由来の総グリチルリチン酸の1日摂取量は0.368mg/人/日と報告され、安全性に問題がないことが確認されています。
参考)https://www.jiafe.or.jp/merumaga/topics/20210400.pdf
食品添加物としてのグリチルリチン酸は、以下の理由で比較的安全とされています。
参考)甘味料(カンゾウ)
ただし、子供・妊婦・授乳中の女性は感受性が高いため、過剰摂取(甘草茶、サプリメント、大量の甘草含有食品)には注意が必要です。
医療従事者が知っておくべき、あまり知られていない意外な事実をいくつか紹介します。
1. 甘草は「諸薬を調和する」だけでなく、他生薬の毒性を中和する作用があります。 例えば、附子(ブシ)の毒性を軽減するために、芍薬甘草湯や四逆湯などに甘草が配合されます。
2. グリチルリチンは、肝臓でグルクロン酸に代謝されるため、肝臓の解毒作用を強化します。 C型肝炎患者13名にグリチルリチン酸を週3〜6回、4週間静脈注射したところ、ALT濃度が低下したという報告があります。
3. 甘草に含まれるフラボノイド(イソリクイリチゲニンなど)には、抗酸化作用・抗腫瘍作用・エストロゲン様作用があります。 女性ホルモンバランスの調整や、マクロファージのIL-12増加による免疫増強作用も報告されています。
参考)https://www1.hus.ac.jp/~e-lab/kanzo.html
4. 偽アルドステロン症の診断で「尿中E/F比」が有用ですが、これはグリチルリチンが11β-HSD2を阻害することで、尿中コルチゾン(E)が低下し、コルチゾール(F)が相対的に上昇するためです。 血中コルチゾールやACTHは通常正常範囲を示すため、局所代謝異常であることがわかります。
5. 甘草は、パーキンソン病治療薬との併用で、運動症状の改善を助ける可能性が示唆されています。 また、気管挿管前のトローチとして使用することで、術後合併症(咽頭痛・咳嗽)を大幅に減少させるというエビデンスもあります。