「癌性疼痛 ガイドライン 最新」で検索する医療従事者がまず確認すべき資料は、日本緩和医療学会による「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」です。がん疼痛の薬物療法を主題とする国内ガイドラインとして、Mindsに掲載されており、発行日は2020年7月20日です。2026年9月時点で、日本緩和医療学会の公開ガイドライン一覧およびMindsの該当ページで確認できる同領域の標準的な国内資料は、この2020年版です。
ただし、「最新」は発行年だけで判断しないことが重要です。新薬の承認、添付文書改訂、安全性情報、保険診療上の取扱い、院内採用薬、地域連携の運用は、ガイドライン発行後に変化している可能性があります。記事や院内マニュアルでは、2020年版を基本文書として明記したうえで、薬剤の用量、投与経路、禁忌、併用注意、腎・肝機能障害時の調整は、必ず最新の添付文書、電子添文、医療機関の規程、専門チームの判断と照合する姿勢が必要です。
2020年版は、鎮痛薬の選択、オピオイドによる有害作用、特殊な状況での治療を主要な領域とし、複数の臨床疑問に対して推奨を提示しています。従来の「WHO方式三段階除痛ラダーを機械的に一段ずつ上がる」という理解よりも、患者の疼痛強度と臨床状況に見合う鎮痛薬を選択する考え方が明確になっています。特に中等度以上の痛みでは、弱オピオイドを経ずに強オピオイドを選択肢とする点が、実践上の重要なポイントです。
参考)がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版 - Mi…
Minds:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版
日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版 PDF
がん疼痛マネジメントの出発点は、鎮痛薬の処方ではなく包括的評価です。痛みの部位、発症時期、経過、持続痛か一過性の痛みか、増悪・軽快因子、痛みの性質を聴取し、身体診察と必要な画像・検査結果を組み合わせて原因を推定します。骨転移による体動時痛、神経障害性疼痛、内臓痛、治療関連痛、褥瘡や便秘などの非がん性疼痛が混在することもあるため、「がん患者の痛み」をすべて癌性疼痛として扱わない視点が不可欠です。
疼痛強度はNumerical Rating Scale(NRS)などの尺度で定量化し、安静時と体動時、定時薬内服前後、レスキュー薬使用前後に分けて記録します。NRS 1~3を軽度、4~6を中等度、7~10を高度の目安とし、痛みの数値だけでなく、睡眠、食事、離床、歩行、セルフケア、会話、就労・家族役割など、患者が維持したい生活機能を確認します。治療目標は単にNRSを下げることではなく、患者にとって許容可能な生活の質を維持できるレベルまで痛みを軽減することです。
| 評価項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 疼痛強度 | NRSなどを用い、軽度は1~3、中等度は4~6、高度は7~10を目安に把握する | 安静時・体動時・治療前後を区別して記録する |
| 疼痛の時間的特徴 | 持続痛、突出痛、薬効切れ時の痛み、予測可能な誘発痛を確認する | 定時薬の調整とレスキュー設計に直結する |
| 病態・原因 | 骨転移、神経圧迫、臓器浸潤、治療関連痛、併存疾患などを評価する | 放射線治療、手術、神経ブロックなど原因治療も検討する |
| 生活への影響 | 睡眠、食欲、移動、排泄、気分、不安、家族負担、治療希望を確認する | 患者が優先する目標を治療計画に反映する |
| 安全性要因 | 腎・肝機能、呼吸状態、せん妄、嚥下機能、服薬管理能力、併用薬を確認する | 薬剤選択、開始量、観察計画に影響する |
再評価は「痛みが強いときだけ」ではなく、鎮痛薬開始時、増量時、投与経路変更時、病状進行時、退院・在宅移行前などに計画的に行います。例えば、NRSは低下していても眠気やせん妄で日中活動が保てない場合、鎮痛成功とはいえません。反対に、骨転移痛で歩行時のみ強い痛みが残る場合は、オピオイド増量だけでなく、放射線治療や整形外科的評価、動作前レスキュー、補助具の検討が必要になります。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_03.pdf
国内ガイドラインでは、迅速かつ安全な疼痛管理のため、臨床的評価と痛みの強さに応じて、NSAIDs、アセトアミノフェン、オピオイドを単独または組み合わせて用いることが推奨されています。軽度の痛みでは、アセトアミノフェンまたはNSAIDsが基本となります。一方、中等度または高度の痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬だけで開始することは推奨されず、適応があれば非オピオイド鎮痛薬に強オピオイドを併用して開始します。
中等度以上の癌性疼痛では、モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドールなどの強オピオイドが治療選択肢となります。ガイドラインの概要では、中等度から高度のがん疼痛に対する第一選択として経口モルヒネが示されていますが、これは「全患者にモルヒネだけを投与する」という意味ではありません。腎機能、嚥下機能、消化管吸収、過去の副作用、疼痛の変動、在宅での管理可能性、剤形の選択肢、患者の希望を踏まえ、個別化して選びます。
弱オピオイドであるコデインやトラマドールは、中等度以上の疼痛において強オピオイドより優先して用いる位置付けではありません。2020年版では、強オピオイドを使用できない場合に限って弱オピオイドを用いることが条件付きで推奨されています。したがって、強い痛みがある患者に対し、「まず弱オピオイドで様子を見る」ことで十分な鎮痛が遅れる可能性を意識する必要があります。
なお、オピオイドの開始量、増量幅、換算、レスキュー量は、患者のオピオイド使用歴、年齢、臓器機能、全身状態、剤形ごとの添付文書により変動します。ブログ記事で一律の具体的処方量のみを提示すると、個別患者に不適切に適用される危険があります。医療従事者向けの教育コンテンツでも、「投与量は院内プロトコルと電子添文に基づき、患者ごとに決定する」と明記することが安全です。
参考)https://www.pieronline.jp/content/issue/0385-0684/49020
突出痛は、持続痛が比較的安定しているにもかかわらず、一時的に増悪する痛みです。体動、食事、排便、処置などに伴って予測できる痛みもあれば、明確な誘因なく起こる痛みもあります。まず、定時薬の効果が切れる前に毎回痛みが強まる「end-of-dose failure」と、本来の突出痛を区別します。前者では定時薬の投与間隔、投与量、剤形を見直す必要があり、後者ではレスキュー薬の種類、投与経路、投与タイミング、効果判定を個別に設計します。
持続痛に対する定時薬と、突出痛に対するレスキュー薬を分けて考えることは、疼痛治療の基本です。突出痛の頻度が増えた場合、レスキュー薬だけを反復するのではなく、疼痛原因の進行、定時薬不足、骨関連事象、病的骨折、脊髄圧迫、神経障害性疼痛、感染、便秘、尿閉などを再評価します。急激な背部痛、下肢筋力低下、感覚障害、膀胱直腸障害があれば脊髄圧迫症候群を念頭に、緊急の評価と専門科連携が必要です。
オピオイド治療では、副作用を「生じてから対処する問題」ではなく、開始時から予防・監視すべき項目として扱います。便秘は耐性がつきにくく、予防的な下剤の併用や排便状況の継続的確認が重要です。悪心・嘔吐は開始初期や増量時に起こり得るため、脱水、便秘、脳転移、消化管閉塞、高カルシウム血症、感染、併用薬など、オピオイド以外の原因も評価します。眠気、認知機能変化、せん妄、呼吸抑制が疑われる場合は、過量投与、腎機能低下に伴う代謝物蓄積、急速増量、鎮静薬や睡眠薬などの併用を確認し、緊急性を判断します。
また、オピオイド使用中に痛みが増悪した場合、安易な連続増量は避けます。病態進行による疼痛増悪だけでなく、神経障害性疼痛への鎮痛補助薬の必要性、オピオイド誘発痛覚過敏、せん妄による訴えの変化、投与経路の問題などを検討します。疼痛と副作用の両方を同じ診療記録上で継続評価し、患者・家族にも「定時薬」「レスキュー薬」「副作用発生時の連絡基準」を説明することが、在宅療養への安全な移行にもつながります。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/03_00.pdf
癌性疼痛では、臓器機能低下、経口摂取困難、がん治療の進行、在宅移行などにより、標準的な薬物療法をそのまま適用できない場面が少なくありません。特に高度の腎機能障害では、オピオイドの種類と代謝物蓄積が安全性に大きく関係します。2020年版では、高度の腎機能障害がある患者の初回オピオイドとしてフェンタニル注射またはブプレノルフィン注射を使用し、モルヒネとコデインを避けることが強く推奨されています。実際の選択では、腎機能だけでなく、疼痛の緊急性、投与経路、観察可能な環境、患者の予後や希望を総合的に判断します。
強オピオイドを用いても適切な鎮痛が得られない場合には、薬剤変更、投与経路変更、鎮痛補助薬の追加、原因治療、インターベンショナル治療の適応を検討します。メサドンは難治性がん疼痛に対する選択肢として推奨されていますが、半減期の個人差、相互作用、QT延長などを考慮する必要があり、安易な換算・導入は避けるべきです。導入・切替の際には、緩和ケア医、疼痛治療の経験を持つ医師、薬剤師との連携が望まれます。
骨転移痛では、鎮痛薬のみでは不十分なことがあります。外部放射線治療、骨修飾薬、手術的固定、リハビリテーション、装具、転倒予防などを組み合わせる視点が重要です。ガイドラインの概要では、骨転移痛に対する8 Gy単回外照射も示されており、疼痛の薬物調整と並行して、放射線治療科や整形外科への紹介時期を逃さないことが求められます。
看護師は疼痛スコア、レスキュー使用回数、副作用、服薬実態、生活上の困りごとを継続して把握し、処方提案につながる情報を共有します。薬剤師は重複投与、相互作用、剤形の適合性、服薬支援、オピオイド変更時のリスク確認に関与します。訪問診療・訪問看護・薬局との連携では、緊急連絡先、夜間対応、レスキュー薬の保管と使用方法、便秘・悪心・眠気が起きた場合の行動計画まで共有することが必要です。癌性疼痛治療は薬を選ぶ行為にとどまらず、患者が望む生活を支えるための継続的なチーム医療といえるでしょう。

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