
「不整合(ふせいごう)」は、複数の事実、情報、記述、判断などの間に、説明できない食い違いがあり、全体として整合していない状態を指します。辞書的には「整合しないこと」「論理的に矛盾があること」という意味で用いられます。
ただし、医療現場では「違っている」という事実だけで直ちに不整合とは限りません。採血時刻が異なる、検査法が異なる、入院前後で病態が変化した、患者が自己判断で休薬していたといった背景が確認できれば、二つの情報の差は説明可能です。重要なのは、情報が異なること自体ではなく、その差を合理的に説明できるかです。
| 用語 | 主な意味 | 医療での例 |
|---|---|---|
| 整合 | 複数の情報や判断が矛盾なく対応していること | 処方内容、患者申告、薬剤情報提供書、残薬が同じ服用状況を示す |
| 不整合 | 本来関連する情報に説明困難なずれや矛盾があること | 診療録の休薬指示と実際の処方オーダーが食い違う |
| 不一致 | 二つ以上の情報が一致しないこと | お薬手帳と患者申告の用量が異なる |
| 矛盾 | 同時に正しいと認めにくい内容が対立すること | 「ワルファリン内服なし」と「本日ワルファリン服用」の記載が同一時点にある |
一般語としての不整合は、報告書、統計、計画、契約、システム仕様など幅広い対象に使えます。一方、地質学では、地層の堆積が中断され、上下の地層の間に大きな時間的空白がある関係を「不整合」といいます。つまり同じ語でも、一般語では「論理や情報のずれ」、地質学では「堆積記録の時間的な断絶」を表します。医療文書では前者の意味で使うことが通常です。コトバンク「不整合」では、一般語と地質学用語の両方の定義を確認できます。
「不一致」は、もっとも中立的な表現です。情報Aと情報Bが異なるという観察事実に焦点を当て、原因は未確定であることを含意します。たとえば、紹介状には「アピキサバン5mgを1日2回」とある一方、患者のお薬手帳には「2.5mgを1日2回」とある場合、まずは「薬剤情報に不一致を認める」と表現するのが適切です。
「不整合」は、その不一致が診療経過、病態、検査、処方意図などと照らしても説明しにくく、確認を要する状態を示すときに有用です。例えば、腎機能低下を理由に減量した記録があるにもかかわらず、処方オーダーだけが通常用量のままなら、「減量方針と処方内容に不整合がある」と記載できます。
「矛盾」は不整合より強い表現です。同じ時点、同じ条件のもとで両立しない記載や判断がある場合に使います。「患者は造影剤アレルギーなし」と「前回の造影CTでアナフィラキシーを発症」とが、同一患者・同一アレルギー情報として併存しているなら、単なる不一致を超えた矛盾です。
診療録では、「不整合あり」だけで終わらせないことが大切です。「何と何の間に」「いつの情報として」「どの程度の差があり」「どのように確認したか」を記載すると、後続する医療者が判断を再現できます。例えば、「紹介状記載のインスリン製剤と患者持参薬の現物に不一致あり。かかりつけ薬局へ照会し、○月○日より製剤変更済みであることを確認」のように残します。
薬物療法では、不整合が最も起こりやすい領域の一つです。患者が持参する薬の現物、お薬手帳、薬剤情報提供書、紹介状、電子カルテ、家族の説明、薬局の調剤歴は、必ずしも同じ更新時点を反映していません。さらに、頓用薬、隔日投与、週1回投与、自己中断薬、残薬、複数医療機関からの処方が混在すると、情報のずれは容易に生じます。
日本病院薬剤師会は、持参薬について、単に現物を鑑別するのではなく、患者の疾患・状態から内容の適切性、継続使用の妥当性、休薬を要する薬剤の扱いを確認し、疑義があれば担当医と協議する重要性を示しています。特に救急・夜間・休日入院では、初期情報が不完全になりやすいため、早期の薬剤師評価と院内共有が重要です。日本病院薬剤師会「医薬品の安全管理に関する留意点について」は、持参薬評価で確認すべき観点の参考になります。
不整合を見つけた際は、薬剤名と規格だけを合わせるのでは不十分です。少なくとも次の項目を横断して確認します。
意外に見落とされやすいのが、「現物がある」ことと「現在服用している」ことは同義ではない点です。以前の処方が残っている、入院直前に中止されている、家族が別の薬をまとめて保管している場合があります。逆に、お薬手帳にない薬を患者が服用していることもあります。現物、文書、患者・家族への聴取、必要時の保険薬局照会を組み合わせ、情報源ごとの更新時点を把握することで、不整合の原因が見えやすくなります。
患者取り違えに関わる不整合は、氏名を確認しただけでは防げません。患者が自ら氏名を名乗っていても、医療者側がオーダー、リストバンド、電子カルテ、検体ラベルなどの情報と照合しなければ、誤った患者への検査・処置につながるおそれがあります。
日本医療機能評価機構は、照合を行わずに誤った患者に検査・処置を実施した事例を取り上げ、患者に氏名と生年月日など二つの情報を名乗ってもらい、電子カルテ画面など医療者側の情報と照合するよう注意喚起しています。確認行為は「患者が正しく答えたか」を評価する試験ではなく、患者、オーダー、実施対象を結び付ける工程です。日本医療機能評価機構「照合の未実施による誤った患者への検査・処置」では、照合未実施に関連する事例と対策を確認できます。
臨床では、次のような情報の組合せに注意が必要です。
ここでの独自の視点は、「不整合を異常として消す」のではなく、「安全確認のための信号として残す」ことです。例えば、予定手術の部位と患者の訴えが一致しない場合、確認により単純な記載遅れと判明することがあります。しかし、その場で違和感を表明せずに帳票だけを修正すれば、後から確認経緯を追えません。不整合を検知した時点で一度工程を止め、情報源と変更履歴を確認する文化が、重大な取り違えの防波堤になります。
不整合への対応は、訂正そのものよりも、訂正に至る根拠を共有することに価値があります。電子カルテ内の情報が食い違う場合、上書きだけを行うと、なぜ情報が異なっていたのか、誰がどの情報源で確認したのかが失われます。医療情報の完全性では、患者を取り違えた記録や、記録情報間の関連付けを誤ることも問題になります。厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、医療情報の正確な取り扱いを考える際の基礎資料になります。
不整合を記録するときは、非難的な表現を避け、観察事実と確認結果を分けます。「患者の説明が不正確」と断定するより、「患者申告と薬局照会結果に相違あり。薬局照会により、○月○日から用量変更されたことを確認」と記すほうが、事実に即し、チームで共有しやすくなります。
記録の基本形は、次の4点です。
電子処方箋管理サービスでは、登録された処方・調剤情報を基に、同一成分・同一投与経路の重複投薬や併用禁忌を事前に把握する重複投薬等チェックが提供されています。ただし、システム上の照合結果は最終判断ではありません。適応、処方意図、投与期間、院内処方、臨床状態を含めて評価する必要があります。厚生労働省「電子処方箋管理サービスにおける重複投薬等チェックの概要」では、照合対象と運用上の留意点を確認できます。
不整合は、情報の質が低いことを意味する場合もあれば、患者の状態変化や治療変更を示す重要な手掛かりでもあります。「合わない」と気づく力は、薬剤有害事象、患者取り違え、検査前条件の誤認、診療計画の伝達漏れを早期に捉える力です。整合しているように見える情報を受け入れるだけでなく、情報源、記録時点、定義、患者の実際の状況を照らし合わせることが、不整合を医療安全へ変える実践になります。
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