
副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌低下、またはPTHの作用障害によって、体内のカルシウム・リン代謝が破綻する病態の総称です。PTHは血清カルシウム濃度を維持する重要なホルモンであり、骨、腎、活性型ビタミンDを介してカルシウム恒常性に関与します。PTHの作用が不足すると血清カルシウムは低下し、リンは上昇しやすくなります。
臨床で問題となるのは、低カルシウム血症に伴う神経筋興奮性の亢進です。症状の程度は血清カルシウムの絶対値だけで決まらず、低下の速度、イオン化カルシウム、アルカローシスの有無、マグネシウム異常、基礎疾患、併用薬などにも左右されます。慢性かつ軽度の低カルシウム血症では自覚症状に乏しいことがある一方、急速に低下した症例では比較的短時間でテタニーやけいれんを生じることがあります。
原因としては、甲状腺手術や副甲状腺手術後の頸部手術後副甲状腺機能低下症が重要です。ほかに、自己免疫性疾患、遺伝性疾患、浸潤性・肉芽腫性疾患、放射線治療後、重度低マグネシウム血症などを鑑別します。頸部手術歴がある患者で、術後早期から口周囲・手足のしびれ、こわばり、筋痙攣を訴える場合には、低カルシウム血症と副甲状腺機能低下症を優先して評価します。副甲状腺機能低下症は指定難病235に位置付けられています。難病情報センター:副甲状腺機能低下症(指定難病235)
参考)副甲状腺機能低下症(指定難病235) – 難病情…
副甲状腺機能低下症の症状は、低カルシウム血症による末梢神経・筋の興奮性亢進として現れるものが中心です。代表的なのは、口唇周囲、舌、手指、足趾のしびれ感、ピリピリ感、蟻走感などの錯感覚です。患者は「手がこわばる」「指がつる」「顔が引きつる」「息苦しくて声が出しにくい」など、必ずしも“しびれ”という語を用いずに訴えることがあります。
進行すると、手足の筋痙攣、手指の特徴的な攣縮、テタニー、疼痛を伴う筋収縮が出現します。神経学的診察では、顔面神経叩打によるChvostek徴候、血圧計カフの加圧によるTrousseau徴候が参考になります。ただし、これらの徴候は単独で確定診断を行うものではなく、症状、血液検査、病歴と統合して判断します。
| 症候・所見 | 臨床的な内容 | 診療上の注意点 |
|---|---|---|
| 口周囲・四肢のしびれ | 口唇、舌、手指、足趾の錯感覚やピリピリ感 | 軽症でも低カルシウム血症の重要な手掛かりとなる |
| 筋攣縮・テタニー | 手指のこわばり、手足のつっぱり、疼痛性筋痙攣 | 進行例では速やかな採血と静脈路確保を検討する |
| 喉頭痙攣 | 吸気性喘鳴、嗄声、呼吸困難、窒息感 | 気道緊急として対応し、低カルシウム血症を是正する |
| 全身けいれん | てんかん様発作、意識障害を伴うことがある | 低カルシウム血症を含む代謝性原因を必ず鑑別する |
| 心電図異常 | QT延長を含む再分極異常、不整脈リスク | 重症例や静注カルシウム投与時には心電図監視を行う |
| 慢性合併症 | 白内障、基底核石灰化、皮膚・毛髪の変化など | 神経精神症状や視覚症状も含めて長期的に評価する |
低カルシウム血症が高度になると、全身けいれん、意識障害、喉頭痙攣、不整脈を来す可能性があります。とくに喉頭痙攣は呼吸不全につながり得るため、喘鳴、呼吸困難、声の変化を伴う場合は、外来で経過をみるのではなく緊急対応を要します。難病情報センターでも、口周囲・手足のしびれ、テタニー、喉頭痙攣、全身けいれんを主な問題となる症候として挙げています。
参考)副甲状腺機能低下症(指定難病235) – 難病情…
副甲状腺機能低下症の診断では、まず低カルシウム血症を確認します。総カルシウムのみで判断せず、アルブミン値を確認して補正カルシウムを算出する、またはイオン化カルシウムを測定することが重要です。低アルブミン血症では総カルシウムが低くみえても、イオン化カルシウムが保たれている場合があるためです。
また、偽性副甲状腺機能低下症ではPTHへの標的臓器抵抗性が主病態となるため、低カルシウム血症・高リン血症に対しPTHが高値となる点が典型的な副甲状腺機能低下症と異なります。PTH値を単に「正常か異常か」で判定するのではなく、カルシウム値に対して適切な生理学的反応かを解釈する視点が不可欠です。
テタニー、持続する筋攣縮、全身けいれん、喉頭痙攣、意識障害、顕著なQT延長や不整脈を伴う場合は、症候性低カルシウム血症として緊急対応が必要です。気道・呼吸・循環を評価し、静脈路を確保したうえで、イオン化カルシウムまたは補正カルシウム、リン、マグネシウム、腎機能、血糖を含む検査を進めます。急性期にはグルコン酸カルシウムの静脈内投与が用いられますが、投与速度と心電図所見に注意し、重症例では心電図モニタリング下で管理します。
呼吸性アルカローシスはイオン化カルシウムを低下させ、症状を増悪させることがあります。過換気を伴う患者では、症状を精神的要因だけと判断せず、実際の低カルシウム血症、呼吸状態、血液ガス所見を総合的に評価する必要があります。また、低マグネシウム血症が存在する場合には、カルシウム補正だけでは不十分なことがあるため、マグネシウム補正も並行して行います。
長期管理では、症状が落ち着いているかだけでなく、治療に伴う腎・尿路合併症とミネラル代謝異常を継続的に確認します。カルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤の投与量を増やし過ぎると、高カルシウム尿症から腎結石、腎石灰化、腎機能低下へつながるおそれがあります。そのため、血清カルシウム、リン、マグネシウム、クレアチニンまたはeGFR、25-hydroxyvitamin D、24時間尿中カルシウムなどを個々の病状・治療変更に応じて評価します。
慢性的な副甲状腺機能低下症では、白内障、脳基底核石灰化、抑うつ、認知・集中力に関する訴え、皮膚・毛髪・爪の変化などがみられることがあります。患者が「以前より疲れやすい」「頭が働きにくい」「不安感がある」と訴える場合、精神症状のみへ安易に帰属させず、カルシウム値の変動、治療アドヒアランス、腎機能、マグネシウム、併存疾患を再評価します。難病情報センターでは、白内障、基底核石灰化、抑うつ、不整脈、皮膚や毛髪の異常なども多彩な症候として示されています。
治療中の患者には、内服・注射の自己中断で低カルシウム血症が再燃し得ること、嘔吐・下痢、食事摂取不良、腎機能変化、薬剤変更などによりカルシウムバランスが変動し得ることを説明します。しびれ、筋肉のつり、こわばり、けいれん、呼吸困難が再燃した際の連絡先と受診目安を具体的に共有し、喉頭痙攣、全身けいれん、意識障害などの緊急症状では救急対応が必要であることを明確にします。
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