男性の尿道は女性より長く、陰茎部尿道、球部尿道、膜様部尿道、前立腺部尿道を経由して膀胱へ至ります。そのため尿道カテーテルの挿入では、外尿道括約筋付近や前立腺部尿道で抵抗感や疼痛が起こりやすく、患者が「痛い」「奥がつかえる」「尿意が強い」と訴えることがあります。特に緊張で骨盤底筋群や外尿道括約筋が収縮すると、カテーテル通過時の不快感が増大します。
一方で、すべての疼痛を「男性だから痛い」「導尿なので仕方ない」と扱うことは危険です。強い抵抗を伴う痛み、出血、カテーテル先端の進行停止、バルーン注入時の疼痛は、狭窄、前立腺肥大症、尿道損傷、誤留置などを示す可能性があります。男性における挿入時は、患者が不快感を訴えること自体は珍しくないものの、抵抗や明らかな痛みがある場合は誤留置を疑い、無理に進めないことが重要とされています。
参考)男性における尿道カテーテル挿入 - 03. 泌尿器疾患 - …
留置後の痛みには、カテーテルによる尿道粘膜刺激、固定不良による牽引、膀胱けいれん、排液不良、閉塞、尿路感染、尿道口周囲の皮膚障害などが関与します。患者の表現が「ヒリヒリする」のか、「下腹部が締め付けられる」のか、「陰茎の先が痛い」のか、「尿が出そうで苦しい」のかで、観察すべき部位と優先度は変わります。
挿入前には、導尿の目的、手順、起こり得る違和感を簡潔に説明し、患者の羞恥心と不安に配慮します。「痛みが強いとき、つかえる感じがするときはすぐに教えてください」と伝えることで、危険な抵抗を早く把握しやすくなります。体位は仰臥位を基本とし、股関節は患者が耐えられる範囲で外転させます。挿入担当者は視野、清潔操作、物品の配置を整え、患者が体をひねったり、急に動いたりしないように環境を調整します。
男性では、陰茎を腹壁に対しておおむね垂直に保持し、尿道の屈曲をできるだけ減らしてカテーテルを進めます。無菌の潤滑ゼリーを十分に使用し、施設手順および製品添付文書に従って局所麻酔薬含有ゼリーの使用可否を判断します。EAUNの日本語版ガイドラインでは、無菌の使い捨て潤滑ゼリーパックの使用、外尿道括約筋で抵抗を感じた際に陰茎へ軽く牽引をかけ、安定した優しい圧で進めることなどが示されています。
参考)https://www.uro-ikai.jp/dcms_media/other/May%2028%20very%20Final%20version%20JPN%20EAUN%20indwelling%20catheter%20guideline%202024.pdf
ただし、「安定した優しい圧」は、強い抵抗を突破するために力を加え続ける意味ではありません。痛みの急な増悪、明らかな通過不能、尿道出血、既往と合わない抵抗があるときは、手技を止めて状況を評価します。尿道狭窄、前立腺手術歴、骨盤外傷、尿道損傷の疑い、放射線治療歴などがあれば、初回から泌尿器科医または施設内の上級者への相談を検討します。
| 観察項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 疼痛の時点 | 挿入開始時、抵抗部通過時、バルーン注入時、留置後、抜去時を区別する | 原因推定と記録に有用 |
| 疼痛の性質 | 灼熱感、刺す痛み、圧迫感、下腹部痛、強い尿意などを確認する | 患者の言葉をそのまま記載する |
| 抵抗の程度 | 軽度か、進行不能か、強い圧を要するかを評価する | 強い抵抗では無理に進めない |
| 尿流出 | 自然な尿流出の有無、量、混濁、血尿、沈渣を確認する | 尿流出のみで留置位置を過信しない |
| バルーン注入時 | 痛み、抵抗、漏れ、陰茎の膨隆などを確認する | 異常時は注入を中止して再評価する |
男性患者で特に注意すべき場面が、バルーン注入時です。尿が流出していても、カテーテルが膀胱内まで十分に進んでいなければ、バルーンが尿道内または前立腺部尿道付近で膨らむおそれがあります。バルーン注入時に強い疼痛、抵抗感、患者の強い苦痛、尿道口からの漏れや膨隆がみられた場合は、注入を直ちに中止し、すでに注入した量があればバルーンを収縮させます。
カテーテルは尿流出を確認後も、製品の分岐部近くまで十分に進めてからバルーンを膨らませることが基本です。MSDマニュアルでも、バルーンをゆっくり膨らませる際に抵抗や患者の不快感があれば誤留置を示唆し、バルーンをしぼませたうえでカテーテル位置を再評価するよう示されています。
バルーン誤留置や尿道損傷が疑われる場合、反復挿入を安易に続けないことが大切です。血尿が増える、尿道口から出血する、著しい疼痛が持続する、導尿できない、下腹部膨満が進むといった所見では、バイタルサイン、膀胱充満、尿量、抗凝固薬の使用、外傷歴を確認し、施設のエスカレーション基準に従って医師へ速やかに報告します。
留置中に「尿道カテーテルが痛い」と訴える男性では、まずカテーテルと採尿バッグの位置関係を観察します。チューブの屈曲、寝具への挟み込み、集尿バッグの高位、カテーテル固定部の牽引、陰茎が不自然に引っ張られる固定状態は、痛みと排液不良の原因になります。尿バッグは膀胱より低い位置に保ち、床には置かず、チューブのねじれや折れを防ぎます。日本泌尿器科学会の感染制御ガイドラインでも、尿の逆流を防ぐため尿バッグを膀胱より低い位置に置くことが推奨されています。
参考)https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/12_infection_control_urology.pdf
尿流出量だけで判断せず、下腹部膨満、膀胱部圧痛、尿意切迫感、尿漏れ、血尿、混濁尿、悪臭、発熱、悪寒、せん妄や全身状態の変化を合わせて評価します。排液が少ない場合は、まずチューブの屈曲・圧迫、バッグの位置、固定部、閉塞を確認します。閉鎖式ドレナージシステムは維持し、必要性のない接続部の離断は避けます。無菌操作の破綻、接続部の断線、漏れがある場合には、無菌的な交換を検討します。
参考)Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 | カ…
膀胱けいれんが疑われる場合、患者は突然の尿意、下腹部の差し込むような痛み、尿道周囲からの尿漏れを訴えることがあります。閉塞や牽引、感染、バルーンによる刺激が背景にないかを確認し、独自の膀胱洗浄や薬剤投与ではなく、院内手順と医師の指示に基づいて対応します。特に血尿や血塊による閉塞が疑われる場合は、緊急性を評価し、速やかに報告します。
厚生労働省:デバイス関連感染防止策とサーベイランス
男性の尿道カテーテル疼痛を減らす最も本質的な対策は、カテーテルを「必要な患者に、必要な期間だけ」使用することです。留置の一般的な適応には、急性尿閉または尿路閉塞、重症患者における正確な尿量測定、特定の周術期管理、会陰部または仙骨部の創傷治癒を妨げる失禁への対応、長期間の不動が必要な状態、終末期における安楽の確保などがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001243411.pdf
反対に、失禁管理のみを目的とする漫然留置、看護負担の軽減だけを理由とした留置、尿量測定が不要になった後の継続は、疼痛、尿道損傷、細菌尿、カテーテル関連尿路感染症のリスクを増やします。カテーテル関連尿路感染の予防において、有効な予防策はカテーテルを留置しないこと、また不要になれば直ちに抜去することとされています。
参考)https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/42_infection_control_guidelines.pdf
医療従事者は毎日、留置目的がなお残っているか、間欠導尿や他の排尿管理法に変更できないか、疼痛を訴える患者でカテーテル継続の利益が不利益を上回るかを評価します。痛みを単なる「カテーテル違和感」として経過観察に留めず、挿入時の経過、カテーテル径と種類、挿入困難の有無、固定位置、尿量、尿性状、発熱、出血、既往歴を記録・共有することが、安全なチーム対応につながります。
患者への説明では、「多少の違和感は起こり得るが、強い痛み、急に増える痛み、尿が出ない感じ、下腹部の張り、血が増える、発熱や寒気がある場合は我慢せずにすぐ知らせてください」と具体的に伝えます。痛みの訴えを早期に拾い、抵抗のある挿入を中止し、留置適応を見直すことが、男性患者の苦痛と合併症の双方を減らす実践的なポイントです。