
ボリコナゾール(VRCZ)の血中濃度測定における採血のタイミングは、治療効果と安全性の両面から極めて重要です。日本化学療法学会の「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022」では、通常投与において5〜7日目に血中濃度が定常状態に達するため、その時点で採血を行うことが推奨されています。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06704/067040457.pdf
しかし、近年の東邦大学薬学部の研究により、日本人においては投与開始3〜5日目での初回TDM実施がより適切であることが明らかになりました。 この研究では、TDMのタイミングが遅くなると血中濃度が上昇し、有効治療域を超える症例の割合が増加することが示されました。特に投与開始3〜5日目にTDMを実施していた群では、6日目以降に実施していた群と比べて肝機能障害の発現率が有意に低かったとの報告があります。
参考)抗真菌薬ボリコナゾールの有害事象を防ぐための最適な血中濃度モ…
定常状態到達後の採血が基本ですが、患者の病態や炎症の重症度によっては、より早期のモニタリングが必要となるケースもあります。 臨床現場では、患者個別の状況を考慮し、必要に応じて2回目のTDMの実施も検討することが重要です。
ボリコナゾールの有効治療域は、血中トラフ濃度が1.0〜2.0μg/mL以上とされています。 この目標値は、日本化学療法学会が2022年に発表したガイドライン改訂版において、システマティックレビューおよびメタ解析の結果を基に設定されたものです。
参考)ボリコナゾール 〔薬物分析〕|臨床検査項目の検索結果|臨床検…
📊 血中濃度の目標値とリスク
| 血中トラフ濃度 | 解釈 | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| :---: | :---: | :---: |
| 1.0μg/mL未満 | 低値 | 治療失敗率が有意に高い |
| 1.0〜2.0μg/mL | 有効治療域 | 推奨される目標値 |
| 4.0〜5.0μg/mL超 | 高値 | 肝障害・視覚障害リスク増加 |
1.0μg/mL未満の低値では治療失敗率が有意に高くなり、侵襲性肺アスペルギルス症を含む深在性真菌症患者において臨床効果と血中濃度の関連性が認められています。 実際の臨床研究では、無効例は全例トラフ値が1.4μg/mL未満またはピーク値2.8μg/mL未満であったとの報告があります。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/047020093j.pdf
一方、血中トラフ濃度が4.0〜5.0μg/mLを超えると、視覚障害や肝障害などの発現リスクが高まることが複数の臨床研究で示されています。 国内5施設401名のVRCZのTDMを実施したレトロスペクティブ調査では、副作用として全体の24名(6.0%)に肝障害を認め、38名(9.5%)に視覚障害を認めています。
参考)ボリコナゾール
特に肝機能障害により投与中止した症例は、全例がトラフ値4.0μg/mL以上の高値であったとの報告があり、血中濃度モニタリングの重要性が示されています。 2025年にFront Pharmacol誌に発表された研究では、軽度から中等度の肝機能障害を有する患者では、トラフVPCの閾値3.81mg/Lを目安に、より低い目標値を設定することが推奨されています。
ボリコナゾールの血中濃度測定における採血管の選択と検体管理は、正確な測定結果を得るために不可欠です。主要な検査会社(LSIメディエンス、BML、SRL、ファルコバイオシステムズ)の検査案内を参照すると、以下の共通した注意事項が記載されています。
参考)ボリコナゾール|抗真菌剤|薬毒物検査|WEB総合検査案内|臨…
⚠️ 重要な注意点
分離剤入り採血管は使用しないでください
血中薬物検査において、血清分離剤入り容器の使用は避ける必要があります。薬物検査において、測定値が分離剤の影響を受ける可能性があるためです。 容器番号03(汎用容器・分離剤なし)や容器番号02(汎用容器)、H2容器(血漿提出用)などの分離剤を含まない採血管を使用することが必須です。
参考)ボリコナゾール
📋 検体必要量と保存条件
| 検査会社 | 必要量 | 容器 | 保存条件 | 所要日数 |
|---|---|---|---|---|
| :---: | :---: | :---: | :---: | :---: |
| LSIメディエンス | 0.3mL(遠心後0.2mL) | 03→02 | 4週 冷蔵 | 3〜4日 |
| BML | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 3〜4日 |
| SRL | 0.3mL | PH5 | 冷蔵 | 3〜5日 |
| ファルコ | 血漿0.2mL | H2 | 必凍 | 4〜7日 |
検体は血漿または血清を提出し、冷蔵保存が基本です。 ファルコバイオシステムズでは「必凍」と記載されており、凍結保存が求められています。 採血後はよく混和させ、速やかに血漿分離を行うことが重要です。
検査方法はLC-MS/MS法(液体クロマトグラフィータンデム四重極型質量分析法)が標準的に用いられており、高感度かつ特異的な測定が可能です。
ボリコナゾールの血中濃度測定は、2015年以降、特定薬剤治療管理料の算定が可能となりました。 これは、数日間以上投与している入院患者の血中濃度検査について、適切な管理料を算定できることを意味します。
参考)http://www.falco.co.jp/business/44-039.pdf
💰 診療報酬情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| :---: | :---: |
| 実施料 | 管理料 |
| 診療報酬区分 | B001 |
| 判断料区分 | 2イ |
| 特定薬剤治療管理料 | 算定可能 |
BMLの検査案内には、「深在性真菌症治療剤の血中濃度を測定することにより、薬剤投与におけるモニタリングに有用です」との解説があり、本薬剤が重症又は難治性真菌感染症に使用される深在性真菌症治療薬であることが明記されています。
ファルコバイオシステムズの資料では、平成27年9月の改正で「ボリコナゾール」の検査項目が追加され、B001特定疾患治療管理料の算定が可能となったことが確認できます。
このように、TDMの実施は単に血中濃度を測定するだけでなく、副作用の早期発見・管理を通じて治療継続率を向上させ、結果的に医療経済的にも有益であると考えられます。
ここからは、検索上位にはあまり見られない独自視点として、ボリコナゾールの血中濃度と肝機能障害の関連性に関する近年の知見について解説します。
🔬 最新の研究知見
2025年9月にCareNetで発表された研究では、肝機能障害を有する患者におけるボリコナゾール関連肝毒性のリスク因子として、血中トラフ濃度と投与期間が独立して関連していることが明らかになりました。 特に注目すべきは以下の点です:
この研究から、肝機能障害を有する患者では、従来の目標値(1.0〜2.0μg/mL)よりも低いトラフVPC(<3.81mg/L)を目標とすることが推奨されています。
さらに、CYP2C19の遺伝子多型に加え、γ-GT(Grade 2以上)やCRPの上昇もボリコナゾールの薬物動態に影響を与えることが示されています。 CRP上昇によりVmax,inh(最大阻害速度)の上昇が生じることが示されており、炎症反応が薬物代謝に影響を与える可能性が指摘されています。
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022 日本化学療法学会
日本化学療法学会の公式ガイドライン。VRCZの目標血中濃度域やTDM実施の推奨事項が記載されています。
東邦大学薬学部プレスリリース 2025年4月30日
日本人における適切なTDM実施時期を解明した研究。投与3〜5日目でのTDM実施が推奨される根拠が示されています。
肝機能障害患者のボリコナゾール肝毒性 血中濃度と投与期間が独立リスク因子 CareNet 2025年9月14日
肝機能障害患者におけるボリコナゾール関連肝毒性の最新知見。投与期間10日間、トラフ値3.81mg/Lのカットオフ値が示されています。
【指定第2類医薬品】イブクイック頭痛薬DX 60錠