あなたのその葉酸指導、実は手遅れになっています。

バルプロ酸は抗てんかん薬の中でも催奇形性リスクが高いとされる薬剤です。神経管は妊娠4週というごく早い段階で形成されます。
参考)てんかんミニ知識 第13回 バルプロ酸(デパケン):その2を…
つまり妊娠に気づいてから葉酸を増やしても間に合わないということですね。
神経管閉鎖不全が起きると、脊髄髄膜瘤などの先天奇形につながる可能性があります。1日量が1000mgを超えると、この確率がさらに高くなることが報告されています。1000mgというと、一般的な錠剤(200mg錠)5錠分に相当するイメージです。
さらに衝撃的なのは、母親が妊娠中に1日1000mg以上服用していた場合、生まれた子どもの知能指数がやや低かったという報告がある点です。この情報を知っていれば、妊娠を希望する患者への説明タイミングを「妊娠判明後」ではなく「挙児希望が出た時点」に前倒しできます。日本産科婦人科学会や添付文書の最新版を定期的にチェックする習慣をつけておくと安心です。
バルプロ酸を長期服用しているてんかん女性の中には、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を発症するケースがあります。ある調査では、月経異常を訴えた女性のうち9例がPCOSの診断基準を満たしていました。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204517414400
これら9例は全員がバルプロ酸を服用しており、平均投与期間はなんと17年にも及びます。
意外ですね。
さらにこの9例中、男性ホルモンの高値基準を満たしたのは8例、卵巣MRIでは全例に多嚢胞卵巣が確認されています。BMI25以上の肥満は3例でしたが、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRの上昇は全例に見られました。
月経周期の乱れを「ストレスのせい」と見過ごしがちな患者にも、服薬歴の確認が欠かせません。PCOS診断後は、産婦人科・内分泌科と連携してホルモン治療やバルプロ酸中止を検討する流れが基本です。
バルプロ酸には食欲を亢進させ、体重増加を招きやすいという特徴があります。思春期の女性患者にとっては、これが服薬継続の大きな心理的ハードルになります。
対照的に、同じ抗てんかん薬でもトピラマートは食欲低下・体重減少の傾向がある薬剤です。
つまり薬剤選択で体重への影響が真逆になるということです。
体重増加は月経周期の乱れとも関連することがあり、患者本人が「太った」という自覚から服薬アドヒアランスを落とすケースも見られます。体重変化を定期的に記録してもらうことは、副作用の早期把握につながる地味ながら有効な手段です。診察のたびに簡単な体重メモアプリで記録してもらうよう促すのも一つの方法です。
若年ミオクロニーてんかんのように思春期に発症するタイプのてんかんでは、バルプロ酸ではなくラモトリギンやレベチラセタムが第一選択になる場面が増えています。これらが無効な場合に限り、バルプロ酸を1日400〜600mgという低用量で投与することもあります。
低用量なら問題ありません。
また徐放製剤(デパケンRやセレニカRなど)への変更で血中濃度の急激な変動を抑える工夫も行われています。血中濃度が安定すれば、副作用のリスクをコントロールしやすくなるという利点があります。
薬剤変更を検討する際は、発作コントロールと副作用リスクのバランスを患者ごとに丁寧に見極める必要があります。
見落とされがちなのが、「挙児希望の有無」を毎回の診察で確認する仕組み化の重要性です。多くの医療現場では、挙児希望の確認が問診票の初回のみで、その後更新されないことが少なくありません。
これでは状況の変化に気づけません。
患者のライフステージは数年単位で変わるため、年1回程度は挙児希望や避妊状況を再確認するタイミングをカルテのリマインダー機能に組み込んでおくと抜け漏れを防げます。あなたの施設の電子カルテにリマインダー設定機能があるか、一度確認してみることをおすすめします。
こうした仕組みがあれば、催奇形性リスクの説明タイミングを逃さずに済みます。
バルプロ酸の安全対策に関する厚生労働省の検討資料はこちら(用量調整や妊娠に関する行政の考え方がわかります)
バルプロ酸ナトリウム細粒の添付文書(禁忌・用法用量の詳細を確認できます)
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